くくる   



じんわりとした暑さに顔を顰めながら不意に美遊に目をやったら、いつの間にか髪をお団子にしてひとつにくくっていた。

「おおー、美遊、髪くくったんですかー」
「え?うん、暑かったから」

ぱたぱたと手で自分の首元を扇ぐ美遊。
なんか、いつもは髪で隠れてるうなじとかが見えてえろいなー…、ってミー思春期の中学生みたいじゃないですかー、堕王子じゃあるまいしー。
けれど美遊のうなじから視線が離せずに、ぼーっとしていたら、視線に気付いた美遊が僅かに頬を桃色に染めてミーを軽く睨んできた。
そんな顔も可愛いですねー。

「何、髪くくるの変?」
「まさかー、可愛いですよー」
「うあ、っじゃなくて、じっと見ないでよ」

桃色だった頬が赤に変わった。
ふいっと目を逸らされて、ミーは手に持っていたペンを机の上に置いて向かいのソファーに座る美遊に近付くと、美遊に体重をあまりかけないように美遊の足の上に跨って、向かい合った。
何してんだコイツ!みたいな表情をして更に顔を赤くしている美遊を見て、ニヤリと口角を上げる。

「な、なな、何してんのフラン…!」
「美遊があまりにも無防備だからついー」
「つい、って、つーかこの体勢はいろいろおかしい!」
「まあ美遊がどーしてもって言うならー、ミーが受でも良いですけどー」

わざとらしく顔を赤くしてみれば、美遊が怒ったようにポカポカとミーの胸元を殴ってきた。
全然痛くないんですけどー。

「言わないし攻めないよバカ!」
「えー」
「えぇえ何その反応」

もうやだ…と呟きながら両手で顔を隠す美遊の顎を掴む。
びく、と身体を揺らした美遊の顔を無理矢理上げれば、恥ずかしさの所為か瞳がわずかに潤んでいた。

ドク、ン。

その表情に、つい、ミーの顔が素で赤く染まった。
固まったミーをキョトンとした表情で美遊が小首を傾げながら見てくる、って、あああもうそういうのホントやめてくださいってばー、可愛すぎるんですよ美遊は自制効かなくなるでしょうがー。


心の中でのミーの葛藤になんか知るはずの無い美遊は、何を思ったのかミーの腰に腕を回してきた。
さっきまで顔を赤くして照れていた美遊とは打って変わった表情に、また心臓が跳ねる。
…なんかミー、乙女みたいで気持ちわるー…。

「なんか、平和だね」
「え、あ、あぁ…そうですねー」
「あたしフランと離れたくないなぁ…」
「何、ですかー、いきなり」
「…ううん、なんとなく思っただけ」

眉尻を下げて微笑む美遊に、ぎゅうと心臓を鷲掴まれた気がした。

離れたくないのはミーも同じですー。
それに、今更美遊を離すつもりだってありませんからー。

「美遊、ミーは美遊を離したりしませんよー」
「…あたしも、フランから離れたりなんてしないよ、絶対」

何かを決意しているような美遊。
美遊、今、美遊には一体何が見えてるんですかー…?

ぞくりと、不安がミーの中を駆けめぐった。


 (元の世界に帰るという、嫌な夢を見ただけ)


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