あやまる   



あたしはじっと息を潜めていた。
いや、息を潜める必要性は全くないんだけどね、雰囲気を出したいが故だよ。


今日、フランは任務に行っている。
そしてまあ、あたしの説得のおかげでまたリア姉さんの部屋に預けられる事となったんですよ、あたし。
あの時のあたしちょうがんばった。

「フランのためにお菓子とか料理とか作りたいんだけど、1人じゃ出来ないし、フランの前で練習してたらかっこつかないし…だからリア姉さんに教えて貰いたいの。ね、リア姉さん心は女性だから何も起きないって!」
「…美遊がそこまで言うなら仕方ないですねー」
「あの、フランが好きなモノ作れるように頑張るね!」
「期待はせずに楽しみにしてますー」
「そこは期待しようよ!?」

みたいな感じ。


それでなんとかリア姉さんの部屋に来た。
そして、あたしは今、スクアーロのいるらしい医務室に向かっている。
万が一フランに知られたら…多分…殺されるんじゃないかなーははー…。
殺されなかったとしても、痛すぎて死にたくなるくらいの強さで犯されそう。
やばいなにそれ恐すぎるんですけ…ど…。

でも、スクアーロに会って、ちゃんとスクアーロに、ごめんなさいって言わないと、なんというか…あたしの気が済まない。
スクアーロは面と向かってあたしに好きだって伝えてくれた。
なら、あたしもちゃんと返事をするのが誠意だと思う。


そんなこんなでリア姉さんに協力して貰って、今医務室にたどり着いたよ!

「…失礼しまーす…」

S.スクアーロ様、ってプレートが貼ってある部屋にそっと入る。
…なんか悪いことしてる気分。
スクアーロには会うなって言われたのに、あたしから会いに行ってるから、フランに対しての罪悪感が働いてんのかなー…。
ごめんフラン。今度肩揉んであげるから許して。

「スクアーロ、さん?」
「…、ゔぉ…?」

寝てる最中悪いけど、あたしにも時間がないんで起きてもらう。
とんとん、と肩を軽く叩いて揺らせば、スクアーロはうっすら目を開けた。

と、次の瞬間凄い勢いで起きあがって、ベッドヘッドにがたん!と背中を付ける。
え、なに、そんなにあたし恐い?
きょとんとするあたしを見ながら、スクアーロは2、3回目を擦った。寝起きに擦ると目腫れますよ。

「おおおおまっ、何でここにいるんだぁ!?」
「あ、その…」
「フランは、どうしたぁ…」
「任務です」
「そう…かぁ…」

僅かに安堵したらしいスクアーロの身体から力が抜ける。
フラン、スクアーロにトラウマ植え付けちゃってる…。
どうすんのこれから2人で任務の日が来たら。チームワーク最悪だよきっと。

「あの、スクアーロさん」
「なな何だぁ」

どもってるスクアーロを微笑ましいな、と思いながら、あたしは頭を下げた。

こんな良い人があたしなんかに好きだと言ってくれた。
スクアーロほど格好良い人なら、もっと綺麗で素敵な人がいるだろうに、あたしを。
その気持ちは、きっとすごく重い。
嬉しくて堪らないけど、あたしはスクアーロの気持ちにこたえられないから。

「好きだと言ってくれて嬉しかったです。でも…ごめんなさい。あたしは、フランが好きだから」
「…っ、んで、」
「フラン以外、好きになれないんです」

あたしは眉をハの字に下げて、申し訳ない気持ちで一杯の頭を、もう一度下げた。
すると、スクアーロの手が、あたしの頭に乗せられる。
ビックリして顔を上げようとしたら顔上げんなぁって言われたから、そのままの微妙な体勢でスクアーロの言葉を待つことに。

「フランが…そんなに好きなのかぁ…」
「はい、大好きです」
「…そうかぁ…悪かったなぁ…美遊」
「え、い、いえっ!」
「悪かった…」

スクアーロの声が、ずしん、と頭に響いた。
なんでこの人は謝るんだろう、優しすぎるよスクアーロ、悪いのはあたしの方なのに。

ぱっと顔を上げて、スクアーロの手をはねのけた。
驚いたらしいスクアーロの目が丸くなる。

「スクアーロさんが謝る事じゃないです。好きって言ってくれたことは本当に素直に嬉しかった。あたしなんかを好きになってくれて、ありがとうございます、スクアーロさん」
「…っ、美遊…」
「あ、じゃ、じゃあ、これで失礼します。ごめんなさいっ…」

言い逃げになっちゃうけど、なんかこのままスクアーロの傍にいたらいけない気がして、あたしは走って部屋を出た。


「美遊、お前は最高の女だぜぇ…」

医務室を出てすぐ、静かな、そんな声が聞こえた。

やっぱりスクアーロは良い人だと思う。
少し急いでリア姉さんの部屋に向かいながら、小さい声で、ぽつりと漏らした。


 (スクアーロは、良い男だよ…)


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