よばれる   


24話フラン視点


ミーがボスに任務以外の用事で呼ばれるのは、すっごく珍しいことだと思うんですよー。
ほら、ミーって品行方正ですからー。

だから、ミーは何で呼ばれたのかを思案しながら、ボスさんの部屋へとぼとぼと向かっていた。
もっとずっと美遊と一緒にいたい。片時も離れたくない。
もしもミーが居ない間に、また美遊が消えたら…そう思っただけで心臓が破裂しそうになる。
全っ然、ミーらしくないですー。

やっとたどり着いたボスの部屋。無駄に遠くにありすぎなんですよー。
軽いノックをすれば、入れ、とのお言葉。

「失礼しまーす」

間延びした声音でそう言ってから、部屋の中に歩を進めた。

ばかでかい椅子に俺様よろしく座っているボスの前に立って、何ですかー?と用件を訊けば、じろりと睨み上げられた。
さっさと用件言ってくれませんかねー、美遊が待ってるんですけどー。

「てめぇのペット」
「っ!」
「霧のリングを持った、女か?」
「なん、で…」

何で、ボスの口から美遊のことが出てくる、んだ。
しかも美遊が霧のリングを持っているって、何で知っている?
ミーは誰にも話していないはずだ。
ドッドッ、と心臓が鳴り出す。冷や汗が、額を伝っていった。

だとしたら、ボスさんはどうする…?
ミーから美遊を、引き離そうとでもするのか…?

答えろ、と呟くボスの声に我に返り、あくまで冷静に、口を開いた。

「そうですけどー、何で知ってるんですかー?」
「カスがそいつを探してる」
「…カス?」
「ミルフィオーレ」

単語でそう返してきたボス。
だけど、ミーには一瞬理解することが出来なかった。
ミルフィオーレ…ミルフィオーレ?
あの、ミルフィオーレが何で、美遊のことを知っていて、何で美遊を探してるんですかー…?

呆然とするミーに、ボスが手元のグラスを投げてきた。
カエル帽子にぶつかって割れたそれから、酒臭い液体が流れてきて顔を伝う。
それも気にせず、ミーはボスの机に駆け寄った。
めずらしく焦ってる自分に、心の中で嘲笑する。

「なん、っで!」
「そのリングと女が、何かの重要な鍵になるんじゃねぇのか」
「何で…」

突然ミーの部屋に現れた美遊。
何処を見ても平凡で、でも所々変わっていて、ミーを惹き付けて止まない、変な女。
首に掛かってるリングを離すと、消えてしまう。

その美遊が、何の鍵になるって…。


わからない。
わからないけど、美遊を易々とミルフィオーレなんかに渡すつもりは、これっぽっちもなかった。

「大事なモンならてめーで守りやがれ、カス」
「…言われなくても、ミーのペットはミーで守りますよー」

はっ、カスが、と鼻で笑ったボスに背を向けて、早歩きで自分の部屋へと向かった。
早く、早く美遊をこの腕で抱き締めたい。

何故か、嫌な予感しかしなかった。


がちゃり、自分の部屋の扉を開く。
焦っていたからか、中にいる人間の気配には全く気がついていなかった。

「美遊、フランなんかやめて俺のもんになれぇ」

どっかで聞いた濁声に、どくん、と心臓が動いた。
何でスクアーロ隊長がここに、いる。
何でミーの目に美遊の姿が映らない?

じっとその光景を眺めていて、ああ、と理解した。


「…なに、してんだ」

ミーの美遊を軽々しく抱き締めるな、ミーの美遊に触れるな。
何で美遊も、おとなしくあんな奴に抱き締められてるんだ!

怒りと殺意に包まれる。
視界が、真っ赤に染まった。


 (フランの怒りが見て取れて殺気に足が竦んだ)


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