いかる   




「…なに、してんだ」

そう呟いたフランの姿はスクアーロの所為で見えないけど、確実に怒ってることは分かった。
それも、今まで見たこと無いような怒り。
あたしは反射的にスクアーロを押しのけて、その反動でソファーにどさっと尻餅をついてしまった。
スクアーロはゆっくりとフランの方に振り返ろうとする。

次の瞬間、部屋が崩れた。


火山の火口みたいな、マグマみたいなものがぶわぁって一気に溢れ出てきて、スクアーロを飲み込む。
あたしは小さく喉を鳴らしてそれに恐怖した。
突然の状況だし、フランの幻術だろうことはなんとなく理解できる。
ただ、それのリアリティが半端じゃなかった。

熱い、恐い、燃えちゃう…!

あたしの目に涙がじわりと浮かんだところで、フランにふわりと抱き締められた。
…あ、この匂いだ、落ち着く。

「フラ、」

フランの名前を呼ぼうと、フランを見上げたところで、あたしはびくりと固まった。
瞳孔の開いた瞳で、スクアーロが居るであろう場所を睨み付けるフランの顔は、今まで見たことあるものじゃなくて、自然とあたしを抱き締めている腕にも力が入ってきていた。
苦しいけど、何も言えない。
どうしようフランが怒ってる、あたしのせいだ、あたしがスクアーロを拒絶できなかったから、どうしようスクアーロが死んじゃう!

「フラン、やめて!スクアーロさんが死んじゃうよ!」
「なんであんな奴かばうんですかー美遊?あんたあのアホ鮫に襲われてんですよー?」
「そうだけど、でも、殺すこと…っん!」

黙れと言うようにフランに噛み付くようなキスを落とされた。
上顎を舐められ舌を吸われ、ひくりと喉が震える。
どっちのか分からない唾液があたしの顎を伝った。

フランは相変わらず怒った表情を崩さなくて、あたしの胸をがしりと鷲掴んできた。

「いたっ、痛いよフラン!」
「飼い主の言いつけが守れないなんてほんとに駄目なペットですねー」
「やっ、フランごめ、やめて…!」
「…ただの消毒ですよー」

再び噛み付くようなキス。
いっそこのまま食べられちゃうんじゃないか、うわ、それは嫌だな、なんて考えて、でもすぐに頭の奥がふわっと浮くような感覚に身体が支配された。

すぐそこでスクアーロが死ぬかもしれない状況に陥ってんのに、ひどいな、あたし。

でも、フランのキスにはなんかいつも思考力を奪われる。
隣で轟々と燃える炎のことも忘れて、あたしの視界にはフランしか映らなくなった。

「美遊、ちょっと此処で待っててくださいねー」
「どこ、に?」
「ちょっとそこのゴミ捨ててきますー」
「…ん」

フランが何を言っているのかよくわかんない、けど、とにかくあたしは頷いた。

きっとフランは正気じゃない。
でも、あたしもきっと普通じゃない。

ぽすんとベッドに落とされて、フランが帰ってくるのを大人しく待つことにした。


 (ゆらゆら揺れる、息が、苦しい)


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