くずれる   



ノック音の後に、失礼しますフラン様、って声が聞こえた。
フランはぱぱっと上着を羽織って部屋のドアを開ける。多分部下の人が何かを知らせに来たんだろーな。
あたしはソファーでぼーっとフランを待つ。

部下の人は帰ったのか、不機嫌そうな顔をしてフランがあたしに抱き付いてきた。
むっすーってほっぺをふくらませてるフランは最高に可愛い。

「何って?」
「ボスが呼んでるらしーですー」
「え、早く行ってきなよ怒られるよ」
「でも、ミーが居ない間に、美遊消えたりしませんかー?」

まだこの子そんなこと言ってたのか…。
こんなにフランのこと好きになっちゃったのに、そのフランを置いて帰るなんてあるわけないのに。

あたしは軽く笑ってから、フランの頭をぽんぽんと軽く叩いた。

「ちゃんと待ってるから」

首にかけてあるリングのネックレスをフランに見せれば、絶対消えないでくださいねーと呟いて、口に軽いキスをされた。
ん、と反応してから、やんわりとフランの身体を離す。
いってらっしゃい。そう微笑めば、フランはカエル帽子をぼすっと被って部屋から出て行った。


ぱらぱらと本を捲って待つこと10分。
フランといたらなんとなくわかるようになったのか、ドアの前に人の気配を感じて、ちらりとドアに目を向ける。

「ゔお゙ぉい!フラン!」
「わ、」

なんとなく、あまり会わない方が良いだろうと思っていたスクアーロが、壊れそうなほど勢いよくドアを開けて部屋に入ってきた。
フランに用事があったのか…。
そこでスクアーロはあたしに気付いて、しまった、というような顔をする。
なに、この部屋にあたしがいること忘れてたの?
あたしフランのペットなのに、あ、いや、あたしは認めてるわけじゃないからね!

「あ゙ー…」
「フランならボスさんに呼ばれて10分前くらいに出て行きましたよ」
「そ、うかぁ…」
「……」

なんとなく、気まずい。
この前のフランのこともあるし…出来ればスクアーロにはフランが帰ってくるよりも早く帰って欲しい。
…あんなめちゃくちゃな抱かれ方は二度とゴメンだ。

なのにスクアーロは、ドアの前から動こうとしない。
そんでもって、あろうことか、ばたんとドアを閉めて部屋の中に入ってきた!
ちょ、ごめん頼むから早く帰ってください!

「なあ、美遊」
「な、なんでしょう…」
「おまえ…フランにヤられたのかぁ?」
「はっ!?」

何その直球質問!!
スクアーロはあたしの目の前まで来ると、あたしの首元をじぃっと睨み付けていた。
ああ、そういえば、フランにそこら辺にキスマークを残されたようなー…ああああ。見られた。

一気に恥ずかしくなって、あたしはばっと服で首元を隠す。
眉根を顰めたスクアーロは、きっとそのあたしの反応で全部理解した。

その苦しそうなスクアーロの表情に、ずきん、と心臓が痛む。

あ、れ、何で…だ?

「…、」
「あの…?っ!?ちょっ、」

ぱしっ、とスクアーロに左手を掴まれて、無理矢理立たされた。
そのままの勢いで唇にぶつかる熱いもの。

なんであたし、スクアーロにキスされて、んの…?


理解が追いつかなくて、あたしはただ呆然と目を見開いて固まってしまった。
スクアーロの力は強くて、逃げようとしても頭と腰をがっちりホールドされて動けない。
触れるだけのキスが終わったと思うと、スクアーロは真っ赤な顔であたしを抱き締めた。

「美遊、おまえが、好き…だぁ」
「…、え」

耳元で囁いたスクアーロの言葉が頭に響いて、世界が一瞬崩れかけた。
だって会ったのはこれが2回目なスクアーロに、あれ、なんであたし、キスされて抱き締められて告白されてる。

その後もスクアーロは何か喋っていたけど、何も頭に入らなかった。

「…なに、してんだ」

ドアを開けて、部屋に入ろうとしたところで固まっている、フランの気配に気付いていたから。


 (目の前の光景が信じられなくて驚愕のあとに胸を締めたのは殺意だけだった)


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