ねる   



しゃこしゃこと歯磨きをしていたら、隣で同様に歯磨きをしているフランがいきなり抱き付いてきた。
ちょ、びびって歯磨き粉飲んじゃったじゃないか、マズッ!
反射的に歯磨き粉を吐き出してフランを睨めば、肩を震わせて笑っていた。
あの、君の所為なんですけど、ちょっと何笑ってんだおまえ。

「美遊、動揺しすぎですよー」
「いきなり抱き付かれたら誰だってびびるわ」
「もう何回目かも分からないのにー?」
「……」

確かに、こっち来てからあたし、何回フランに抱き付かれたかな…役得役得、じゃなくて、本当にこのカエルは人を何だと…。
フランをジト目で睨む。
何ですかー?ってあっけらかんとしてるフランはどうせ遊びなんでしょーよ。

あたしの反応が面白いからとか。
リア姉さんも言ってたし、一般人が珍しいんだろうな。
やば、なんか切なくなってきた。バカか自分。

わかりきってたことなのに。

「美遊ー?」
「、なんでもない」

うがいをしてその場から逃げようとしたら腕を掴まれた。ですよねー。
大人しくフランがうがいし終わるのを待って、ぼーっと宙を眺めてたら、いきなり身体が浮いた。
は?!と思って顔を上げればフランの顔面ドアップ。初めて姫抱きされた、じゃなくって!

「フランはいつも行動が突然すぎ…」

半ば呆れ気味に溜息と共にそう言えば、いつもとちょっと違う視線で睨まれた。
あの、なんか瞳孔開いてません?
ほんといきなりすぎてついて行けないんですけど…誰か助けろ。

「ちょっと、フラン…痛っ」
「黙っててくださいー」
「は!?って、ちょ」

落とされた場所はベッドの上で、身体を思いっきりくすぐられたあの日を思い出したあたしは身震いした。
いや、あたしホントくすぐられるの弱いんだって。

あの日と同じように覆い被さってくるフランに、思わず目をきつく瞑った。
何もされませんように何もされませんように何もされません、ように!

「美遊、目、開けて」
「え…」

言われたとおりにうっすらと目を開けたら、フランの顔が、すごく近く…もう、ちょっと顔を動かせばすぐぶつかっちゃいそうな程、近くにあった。
ビックリして、喉がひくりと鳴る。
フランはにやりと口角をつり上げると、あたしの頭を手で押さえた。
逃げるな、って言うように。

心臓がばくばく言って、頭、痛い。これ心臓壊れちゃうんじゃないかな…。

と、フランの顔が、不意に悲しげに染まった。
ほんとに予測できない行動ばっかりするなこの子…。
そして、ぼそぼそと小さい声で呟く。

「美遊は、ミーに抱き付かれるの、嫌ですかー?」
「…は?」
「いっつも、眉間に皺寄せてますしー」

…それは恥ずかしいからですけど。

嫌なわけ無いじゃないか、とは、思うけど。
前言ったように限度ってのがありますよねー。
1日何回フランに抱き付かれてると思ってんだ、数えるのもめんどいくらいなんだぞ!

「嫌じゃない、けど」
「けど、何ですかー」
「、恥ず、か…しい」
「…っ、」

「てか何回も抱き付きすぎ」
「美遊が可愛いのが悪いんですよー」
「人の所為にすんな!」

ゴッ、と、おでことおでこがぶつかった。
すっごく痛かったんですけど…このカエル石頭かよ…、!
涙目で睨み上げれば、痛かったのかフランも涙目であたしを睨んできた。
お互い石頭って事ですか、ごめん。

「…なんか馬鹿馬鹿しくなってきましたー、寝る」
「フラン一回飛び降りればいいのに」
「普通に着地できますけどー?」
「ですよねー」

シーツをばふっとかぶせて、寝る体制に入るフラン。
もちろんあたしを抱き締めたままだ。

はあ…と小さく溜息を吐いて、あたしも右手をフランの背中に回した。
フランがぴくりと反応して目を開いた。
じぃっと無言であたしを見てくる。

「、…おやすみフラン」
「おやすみー、美遊」
「とか言いつつ何人のお尻触ってんだ変態」
「つい」
「死ね」


 (君の腕の中は何故か落ち着く)


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