おぼれる   



その日から、フランはあたしから片時も離れようとしなくなった。
リングの付いたペンダントは、常にあたしの首もとで煌めいている。
フランが外すことを許さなかったから。
首輪と一緒にペンダントもつけるのは、なんか微妙な感じなんだけど…逆らったらくすぐられそうだし。それは勘弁。

「また勝手に消えられたら困りますんでー」

そう言って、寝るのも食べるのもお風呂にはいるのもずーっと一緒。
さすがにトイレは別々ですけど…仮に一緒だとしたらとんだ羞恥プレイだ。
それでも、トイレの前でフランが待っていたりするので、水の無駄遣いになる。
この屋敷の水道代払う人ごめんなさい。

「あの、フラン…暑いんだけど」
「ミーは暑くありませんー」
「なにその自分主観…」
「美遊みたいな一般人がミーに抱き締められるなんて光栄な事じゃないですかー」
「そりゃそうだけどさー」

ソファーで、ちょっとした言い合い。
そりゃ確かにね、あのフランにあたしなんかが抱き締められてるのは光栄なことでしょうよ。もちろん嬉しいよ。
けどさ、限度って物があると思うんだあたし。
どんなに好きな人でも、四六時中一緒にいられたら頭くらくらするね。あまり良い意味でなく。

ふとフランに目をやれば、きょとん、と目を丸くしていた。
ちょっと、どうしたのこの子。

「てっきり、あんたみたいなカエルに抱き締められたって嬉しくないー、みたいなこと言われると思ってましたー」
「君の中であたしはどう映ってんだ」
「ツンデレですかねー?」
「残念、あたしはヤンデレだ」
「ミーもヤンデレですけどー」
「…ごめん、やっぱヤンデレやめる」

てか何でフラン、ヤンデレって単語知ってんだ、一般常識だったっけこれ。
それに、フランがヤンデレとか怖すぎません…?
あたしなんかがヤンデレを名乗る資格なかったわ、すみませんでした。

ちょっと思案してからフランの腕の中で身を捩り、フランに顔を向けた。
少し言葉を探してから、ゆっくりと言葉を紡ぐ。

「フランに触れられるのも、話せるのも、こうやって抱き締めて貰えるのも、あたしはすっごく、嬉しいよ」
「…、っ」
「?フラン、どしたの。まさか照れた?」

冗談半分にそう言って笑えば、むにーとほっぺをつままれた。
ちょ、痛いです痛いですフランさん。
変な顔ー、ってフランお前の所為だろうがコノヤロ!

「ミーも、美遊に会えて幸せですー」
「…はっ?!」

フランの顔が赤い、なんて、ちょっと待ってこれ夢かな。
夢ならお願い、覚めないで!


((ここまで溺れるとは思わなかった))


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