毛利さんが落ちてきてから、一週間が経った。
私の座椅子に座ってテレビを見ている毛利さんをぼんやり眺め、私もテレビに目を向ける。

毛利さんはニュース番組を気に入っているようだった。
時折、聞いたことのない英語やカタカナ言葉が出てくると、どういう意味か問いかけてくる。説明は難しいけど、なるべく分かるように伝えているつもりだ。
そして今、ニュースでは来月末に起きる金環日食の話をしていた。

「これは、」
「…?どうしたんですか」

聞けば、毛利さんが私の部屋に落ちてくる前、戦国時代でも金環日食が起きたそうだった。
日輪の申し子を称している毛利さんとしては、昼間、晴天の最中に太陽が欠けていく様は見ていて不吉でしかなかったという。

時期が重なっている。多分、その日食が原因だろう。

「じゃあ、来月には、毛利さんは帰れるんですね」

良かったですね、と笑みを向ける。

この一週間、私に悟られまいとしてはいても、毛利さんは安芸の国のことが心配で仕方なかっただろう。
早く帰りたいはずだ。
それが一ヶ月後、というのもなかなかに焦れるものかもしれないが、いつ帰れるか分からないよりはマシだと思う。

「日輪の申し子である我が、日輪が消えると共に姿を消すとは、かくも愉快なものよ」
「そうですねえ、太陽そのものみたいですね」

金環日食が起こるのは、八月二十九日の午後一時過ぎ。
その日に、きっと、毛利さんは戦国時代へ帰るのだ。
それまでこの世界で、せめて楽しく過ごしてもらえたらな、と思う。

「…貴様は、我に早く帰ってもらいたいようだな」

ニュースは金環日食の話題を終え、先週オープンしたばかりの喫茶店を映し出していた。
テレビから興味が失せたらしい毛利さんにそう、ぽつりと漏らされ、きょとんとする。

早く帰ってもらいたい。
…どうだろう。確かに、毛利さん的には早く帰った方がいいんだろうし、それは毛利さんの、元の世界での配下の人たちの事を考えても、そうだと思う。自分の上司が突然消えたら、それは驚くだろうし。

「まあ、早く帰らなきゃ、毛利さんが困りますもんね…?」

考えながらの言葉だった。

だってこれは、私がどうこう言える話でも、ないだろう。

「…つまらぬ」
「え、あ、なんかすみません」

毛利さんは私を一瞥すると、またテレビへと視線を戻した。
画面いっぱいに映し出されているパンケーキは、ふわふわとして、美味しそうだった。


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