「あ、あの、元就さん、この体勢はいった、一体、どういうことでしょう」

晴れて人生初の彼氏なる存在をゲットした、というかなんというかどっちかというとゲットされた私は、現状を理解できずに心の底から慌てていた。

あれから四日。
私と元就さんとの距離は、前と比べて、物理的に近い。近すぎる。

「どうもなにも、小晴を抱えておるだけだが」

座椅子にあぐらをかいて優雅に座る元就さんの、足の上。
元就さんは私の腰に腕を回して、何でもないことのようにテレビを見ている。映し出されているのは、いつぞやかにオープンした喫茶店が繁盛しているという、昼のニュースらしいのんびりとした話題だ。
私はといえば、そんなの気にしてられないくらい、動悸が激しいのだけど。

「そ、そんな普通に…。というか、お、重いでしょうし邪魔でしょうし、まず暑いですよね?は、離して、いただけたら、ありがたいんですが…」
「貴様は我に触れていたくはないと?」
「いや、う…そうじゃ、無いんですけど…」
「なら、問題は無かろう」

ぎゅうと、腰に回る腕に力がこもった。

嫌じゃない。けど、恥ずかしいことこの上ない。あと暑い。
心臓はうるさいし、顔も熱くてたまらないし、うう、何で元就さんは平然としていられるんだろう…。これが経験の差というものなんだろうか。
そう考えて、ふと気が付いた。

「元就さん、って、彼女…じゃないな、正室?とか、いるんですか?」

ゲームではそういうところにはまったく触れていなかったけど、一国の主だ。やっぱり、正室…奥さんとか、いるんじゃないだろうか。
あの頃は、多分、一夫多妻制なんだろうし。

「我にそのようなものはおらぬ。必要も無い」
「え、あ、そういう感じでいいんですか」
「…我には安芸と、日輪と、小晴さえおれば良い」

ぶわりと、胸の奥から何かがこみ上げてくるような感覚がして、思わず胸元を抑えた。
直球にもほどがある。こんな、元就さん、ドストレートな愛情表現する人だったの?
言われた言葉は、嬉しくてたまらないんだけど、それでもやっぱり、恥ずかしいという思いが先に立つ。

きっと真っ赤だろう顔であたふたとしていたら、元就さんはテレビから目を離し、私の頬をするりと撫でた。
「茹で蛸のようぞ」なんて、そんなの、元就さんのせいなのに。
にしても本当、愉しそうな顔で笑うな、この人は。

「はあ……明日、ですね。広島」

私の言葉に頷いて、毛利さんは両腕で私を、抱き締めた。
その意味は、果たして。


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