私の部屋は、そんなに大きくないマンションの最上階にある。
1Kの部屋はさほど広くはないが狭くもない。一人暮らしにはちょうど良い広さだ。
特に私は、はしごを登った先にあるロフトが気に入っていた。斜めの天井についている天窓から、朝日が差し込むロフトが。
家具は私の好きな黄緑と白、黄色で統一してある。タオル類までその色で統一する徹底っぷりに、友達から呆れ混じりの賞賛をもらったのは記憶に新しい。

「今日から大学も休みだし、今日はゆっくり過ごそう」

暦は七月の中頃を示している。
夏休みに入った私は、これといったサークルにも属していないためこれから一ヶ月半の長期休暇だ。

遊ぶ予定は多少あれど、やることは特にない。
以前まで勤めていたバイト先も、今はもう辞めてしまった。お金の貯蓄はあるから心配していないが、夏が終わる頃にはまた新たなバイト先を探すべきだろう。

「課題も少ししかないし、暇な夏になるかな」

ごろりと、夏の日差しが眩しいロフトで寝返りを打つ。

途端、どさりと何か、鈍い音が聞こえた。何か重くて柔らかい物が、高いところから落ちたような。
積み重ねていた服でも雪崩れたかな、と思い体を起こす。
ロフトから部屋を見下ろして、私は、凍り付いた。

「……も、毛利、元就…?」

いやに部屋とマッチしている、緑色の人。
友達に借りたゲームが脳裏をよぎり、唖然としながら思わず呟く。

落ちた、んだろうその人は、私の声が聞こえたと同時に鋭い視線を此方に向けてきた。

「貴様は誰か。気安く我の名を呼ぶでないわ」

どこかから落ちてきたにも関わらず、凜とした姿勢で、態度で、私を見上げる。
見上げられているのに、見下されている気がした。…きっと、そうなのだろう。

「…ここは何処だ?我を一瞬の間にて攫うとは、貴様、婆娑羅者か」
「え、あ、いえ…」
「見たことのない景色…これは絡繰りか、ただの箱か。しかし妙な…」
「あ、え、えと、」

とりあえず説明をした方が、いいんだろうか。
説明が欲しいのは私の方、なんだけど。ゲームのキャラクターが目の前にいるなんて、そんな。

慌ててロフトから降りようとはしごに足をかけた私は、ずるりと滑ってそのまま床に転がった。
大してひどい痛みは襲わなかったものの、「いったぁ…」とやや泣きそうな声が自然、漏れ出る。

「…愚鈍な者よ」
「す、すみません…」

呆れきった声音が頭上から降ってきて、やっぱり下に降りなければよかったと肩をすくめた。
目線でまで見下されたら、なにも言えなくなってしまう。

「…我には、今なにが起きているのか理解出来ぬ。貴様のような者が策を弄せるとは思えぬが…この事態、我に説明してみせよ」
「え、あ、はあ…」
「我が納得できねば、その首、胴に戻ることは二度と無いと思え」

嘘…と呟いたつもりが、吐息が漏れるだけで言葉にならなかった。

夏が始まったばかりで、さっきまではこれからこの長期休暇、いかに無駄に過ごすかを考えていたのに。
何でこんな目に遭わなきゃいけないんだろう。いきなり、死にそうになるなんて。
あの、特徴的な輪っかの武器…輪刀、だっけ。それが部屋に差し込んだ太陽光に反射して、きらりと光る。

涙が出そうだった。


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