十時を過ぎれば、毛利さんは寝る支度をし始めた。
一応、客人的な感じなのだし、と恐る恐るロフトを薦めてみる。

「毛利さん、寝るんでしたら、ロフトで寝ますか?あの、私は下で寝るんで」
「ろふと?」
「あ、あそこです。私が朝、いた場所」

ロフトを指さし、そこに布団が敷いてあるのだと伝える。

「…我が貴様より上の場で眠るのは当然であろう」
「そうですか」

もう、何も言うまい。

毛利さんははしごを上り、ロフトに腰を下ろした。
なんとはなしにその光景を見上げれば、毛利さんはじ、と天窓を見つめている。

「良いでしょう、その天窓」

ぽつり、呟いた。

「朝、日が昇るとそこから光が差し込むんです。太陽の光を浴びて、目を覚ます。今の時期だと暑いですけど、春とか、冬場は、あったかいなあって、今日も頑張ろうって、そう思えるんです。私がこの部屋の中で、一番気に入ってるとこですよ」

笑みを浮かべれば、毛利さんが天窓から私へと、視線を移した。
その表情が、驚いているような、ほんの少し嬉しそうな、よくわからない顔で、首を傾げる。

「貴様も、日輪を崇めているのか」
「崇め……そこまではいきませんけど、太陽は好きですよ」

毛利さんは、静かに寝ころぶ。
返事は、なかった。


――…


布団に包まれて眠ることに慣れていたからか、私なりに緊張でもしていたのか、昨晩はあまり眠れなかった。
何度も寝返りを打って、眠れないなあ、なんて考えたりして。暗闇に慣れた目は、部屋の中をうっすらと映している。

ああ、あのロフトの上で、毛利さんは今頃眠っているのだろうか。
男の人を、自分の布団で寝させたのなんて初めてだ。
そんなことを考えて、何故か、照れてしまったり。

しかし三時を回った頃には自然、瞼も落ち、私はそこからぐっすりと眠りについた。途中何度か起きてしまったから、ぐっすりとは言えないかもしれないが。

そして、朝の五時前。

「確かにこれは、良いやもしれぬ」

そんな声が、ロフトから聞こえてきた、気がした。
眠気に逆らうようにして、うっすらと瞼を押し上げる。半身を起こした毛利さんが、天窓に手をかざしていた。そこからは光が伸びていて、毛利さんを照らしている。
人が人だからか、それはいやに幻想的な風景に思えた。
寝起きで、頭がぼーっとしているから、ってのもあるかもしれないけれど。

「起きているのか?」
「…え、ああ、はい、多分」
「己が起きているのか否かも分からぬとは…」

やれやれ、的な溜息を吐かれ、眉が寄る。

「対話が出来るのなら、起きているのであろう。体を起こせ、日輪を拝むぞ」

言ってる意味がいまいちわからず、天井を見上げたままきょとんとする私を尻目に、毛利さんはロフトから下りてくる。
何するんだろう、とそれを見守っていたら、すぐそばまで来た毛利さんにぐいっと手を引っ張られた。変な声をあげつつ、慌てて立ち上がる。

「っ…服を着よ!」
「着てますよ」

寝ている間に脱いだパーカーを凄まじい勢いで投げつけられ、渋々私はそれを羽織った。
本当に、この格好には慣れてもらわないといけない。
寝てる間はエアコンをつけていると風邪を引くし、なら涼しい格好をして寝ないといけないじゃないか。パーカーなんて着ていられない。

「なるべく早く慣れてくださいね、毛利さん」
「貴様がまともに服を着れば問題無かろう」
「そうもいきませんよ」

だけど、慣れて貰うまでの道のりは、長そうだ。


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