晩ご飯も特に何の問題も無く終わった。
まずいとか、食えたもんじゃないとか言われなくて良かった、本当に。
ただ美味しいとも言われなかったけど、それは言いそうな人でもないし。黙々と食べていたから、まあ、多分嫌いな味では無かったんだろうとポジティブに受け取っている。

そしてお風呂の使い方、ついでにトイレと洗面所の説明もして、今は毛利さんがお風呂に入っている。
何か問題があれば呼んでくださいと言ったものの、いざ呼ばれたら私はちゃんと応対できるだろうか。男の人の裸を前にしてちゃんと喋れる自信は無い。

しかしそんな不安も杞憂に終わり、頭にバスタオルを乗せてがしがしと髪の毛をぬぐう毛利さんがお風呂からあがってきた。
錆浅葱色の浴衣をきっちりと着ているのは毛利さんらしいのに、髪の拭き方が男らしくてその違和感にちょっと笑ってしまう。

「何を笑っておる」
「いえ、すみません」

咎められた。
これ以上のお叱りは受けたくないので、私はバスタオルと着替えを手に「お風呂入ってきます」と毛利さんの横をすり抜ける。
ふわり、私のシャンプーの匂いがした。
当然だろう、さっき毛利さんはうちのお風呂に入っていたんだから。だけど何故か、心臓が跳ねた。


――…


お風呂からあがり、バスタオルを肩にかけて部屋へ戻る。
「あがりましたー」と、クーラーのかかった部屋の涼しさに表情を緩めさせていたら、座椅子にすわってテレビを見ていたらしい毛利さんがぎょっとした顔でこっちを見ていた。
何か、お化け的なものでもいたのかと思って後ろを振り向く。何も無い。
もう一度、毛利さんへ視線を戻せば、その顔はみるみるうちに赤くなっていった。はて、何でだろう。

「き、貴様、その格好は、」
「え?ああ、暑いんで、これが私の寝間着なんですが」

私が着ているのは、黄緑と白の水玉模様に、レースがついたかわいいキャミソールとショートパンツだ。上下セットで千円未満。良い買い物をしたと思う。

「女がそのように肌を見せるなど、貴様は痴女か!」
「痴女って!ひどいですよ、外でも見たでしょう、この時代の女性は普通に肌を出してるんです!」

あまりの言い様に、思わず距離を詰める。
痴女だなんて、初めて言われた。怒りよりも先に驚きが頭を占める。けれど、じわりじわりと怒りも滲んできた。痴女だなんて!

「近付くでない!」
「ならさっきの発言、撤回してください!」
「そのような、襦袢のみのような格好でふらりと男の前に現れて、恥じもしない女など、痴女以外の何者でもないであろう!」

うぐ、と黙り込んだ。

これは、あれだ。価値観の違いというやつだ。
戦国時代の女性は、きっと基本的に肌をあまり出さない格好だったんだろう。着物って、一番えろい場所はうなじだって、昔友達が言ってたし。
とはいえあのゲームの中では、ばりばり肌を出している女性キャラが何人かいた気がするんだが…そこは、まあ多分、触れてはいけないんだろう。

「…すみませんでした」

でも痴女は、あまりにも失礼だと思う。
ぶすくれた表情でクローゼットを漁り、薄手のパーカーを取り出して羽織った。これでいいでしょう的な目線を送れば、足もどうにかするよう言われる。
毛利さんの座る座椅子の、斜め前に置いてあるクッションの上に座り、足をタオルケットで隠した。これでいいでしょう、本当に。

「今日はこうしておきますけど……でも、こっちではこれが普通なんです。毛利さんが慣れてください」
「我が貴様の為に我慢をせよと?ハッ」

鼻で笑われた。

同居初日にしてこんなこと思うのもあれだけど、本当、早く一人の生活に戻りたい。


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