「え…えと、毛利元就さん、で、間違い無い…んですよ、ね」
「如何にも」

正座した状態で、机に座り足を組む毛利さんの正面に座る。
恐る恐る問いかけた言葉に、是と答えられ、私はまた泣きそうになった。ああ、その机、気に入っているのに。

「ここは…貴方の過ごしていた世界より、三…四百年程、先の世です。あ、で、でも、ただの先の世じゃなくて、パラレルワールド…ええと、平行世界と言いますか、毛利さんの世界での未来は、多分この世界じゃなくて…」
「我に分かるよう説明せよ」
「……毛利さんのいた世界とは、異なる世界だとしか、…私には」

ああ、これは首が飛ぶかもしれない。
短い人生だった。

恋らしい恋も出来ず、友達には「あんたいつ彼氏作るの?粘土かシリコン買ってあげようか?」と心配そうに、でも楽しそうに言われ、二人の姉には「私があんたと同じ年の頃にはもう結婚してたってのに」「あたしなんか子供いたわよ」と窘められ、…ああ、恋したかった。
まさに夏はこれからという時期に、胴体とさよならした首が転がる部屋で、腐乱死体となって発見されるのだろうか。
せめて今から友達に、部屋に来てもらうよう連絡しておくべきか…。

私が死の覚悟を決めている最中、毛利さんはぽつりと何かを呟いた。
聞き取れなくて、たれ下げていた顔を上げる。ひどく馬鹿にしたような表情の毛利さんと、視線があった。
それにしても、本当、綺麗な顔をしている。

「この箱…板、か、これは何なのだ」
「…あ、それはパソコン…と言って、ええと…物を調べたり、文字を書いたり、遠くにいる人と連絡をとることが出来る…機械です」
「絡繰りか?」
「そうです」

ふむ、と興味深そうに白のパソコンを撫でて、けれどすぐに毛利さんは私に目線を戻した。
びくり、体が震える。
今度こそ死んでしまうのだろうか。この場合、頭にさよならを言うべきなのか、胴体にさよならを言うべきなのか、どっちなのだろう。

「貴様に一つ、問う」
「は、はい」

毛利さんは私から目を逸らし、窓の外を見やった。
空は、綺麗な真っ青の、快晴だ。

「我が安芸の国は、今どうなっている」

あき…あき……国、我が、…ああ、安芸か。
あれってあきって読むんだ。ずっとあんげいって読んでた…恥ずかしい…口にしなくて良かった…。
それで、確か広島だったよね。広島、か。

「平和ですよ。綺麗で、あたたかくて、優しくて……私の個人的なイメージですけど。実家がそこにあるんです。厳島神社も…機会があったら一緒に行きましょう」

目を閉じて、故郷の景色を思い浮かべる。地元の友人達は、元気だろうか。

数秒間の沈黙が続いて、私ははたと気が付いた。
い、一緒に行こうだなんて、私はいったい何を。ゲームの世界の人とはいえ、一国の主相手に、図々しいにも程がある。

「あ、す、すみま、」
「そうだな、我も、この世での安芸を目にしてみたいものよ」
「、…毛利さん」

静かに、流れるような動作で机から降りた毛利さんは、三十センチほどの間をあけて私に顔を寄せた。
綺麗な顔が目の前にあって、どきりとする。

「女、貴様の名は」
「え、あ、小晴…です」
「ならば今日から我は此処で暮らす。この場に落ちてきたのだから、帰る手立てもこの場にいた方が立てやすかろう」
「…は、はあ」

何で今、名前訊かれたんだろう…。

本当に思ってるんだか思ってないんだかわからない「世話になるぞ」の言葉に、なぜか「こちらこそよろしくお願いします」と、呆然と返してしまって。
…え、あれ、私、この人と今日から一緒に住むの?と、重大な事実に気が付いたのは、それから五分か十分の時間が過ぎてからだった。


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