朝食を食べ終え、あぐらをかく元就さんの足の上に座らされて、二人で朝のニュース番組を見る。
テレビはどのチャンネルも、今日の金環日食の話題で持ちきりだ。
日蝕を見るときの注意だとか、レンズが売り切れ続出だとか。

元就さんはテレビを見ながら私の足やら頭やらを撫でてきたり、時々頬や首筋に口付けてきたりとやってることがどこかセクハラしてくるおっさんくさい。
そんなこと口が裂けても言えないし、まあ、嫌ではないんだけど。
ただひたすらに恥ずかしいし相変わらず暑いしで、離れたいけど離れられない。複雑な心境だ。
だって今日が最後だと思うと、やっぱり…ね。

「……っ、だ、けど、あちこち触りすぎです元就さん!」
「そうか?」
「そ、そうですよ!太ももとか、あんまり撫でないでください」

ふむ、と考え込むように手を口元にあてて、元就さんはちらと私を見上げる。

「逃げぬようであったから、嫌ではないと思ったのだが」
「い、あ、う……、そりゃ、嫌では、ないですけど」
「ならば良いであろう?」
「そういう問題じゃ無いんですってばあ!」

すりすりと太ももを撫でてくる手を、思わずぺしん!と弾く。
私の予想外の反撃に元就さんもちょっとびっくりしたのか、ほんのり丸くなった目で私を見つめてきた。けれどその視線がすぐに、責めるような物に変わる。怖い。

「左様か……。我は最後の日くらい、小晴に触れていたかったのだが」
「う、……」

顔を俯かせる元就さんに、しゅんとなった動物の耳が見えるような気がして、申し訳なくなってくる。
が、ハッと気が付いて頭をぶんぶん振った。

「もうその手には騙されませんからね!」
「チッ」
「うわあもう、元就さん、……もう…っ」

最後の最後までこの人こんな感じなの……と一周回って尊敬の念すら浮かんでくる。
元就さんがこういう、しおらしい態度をとるのは私を騙すためだって、学習していて良かった。私もそこまでバカじゃない。

舌打ちをした元就さんは私の後頭部に手をやり、ばふ、と自分の身体に押しつけた。
突然のことにびっくりしたのと、元就さんの肩で鼻を打ったのとで、ちょっとだけ目尻に涙が浮かぶ。
元就さんは私の右肩に頭を乗せて、拗ねたように呟いた。

「小晴に触れていたいというのは、真実ぞ」
「……う、あ、はい…」

そんなはっきり言われたら、さすがにもう、本当に離れられない。
私だって元就さんに触れていたい。
この人の体温を、忘れないように、ずっと。

「……小晴」
「はい」
「小晴、」
「何ですか、元就さん」
「……呼んだだけぞ」
「……元就さん」
「何ぞ」
「そういうの地味にイラッとしません?」
「……」

くすっと笑いを漏らして、元就さんの背に腕を回した。


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