新幹線で広島駅へ向かい、電車を乗り継いで、フェリーに乗り、宮島へ。
辿り着いた厳島神社は観光の時期だからか、人で賑わっていた。

慣れ親しんだものではないだろうけど、元就さんも感慨深げに、周囲を見渡している。

「……綺麗ですね」
「…うむ」

時間をかけて、ゆっくりと観光をする。
繋がれた手には少し力がこもっていて、元就さんにも何か思うところがあるんだろう。私はそっと、一歩前を歩く元就さんを見上げて、微笑んだ。

「っあ、元就さん写真撮りましょう、写真!」

大鳥居が背景に写る位置に立ち、近くを通りがかった人に撮って貰うようお願いして、元就さんの腕を引く。
ほんの少し嫌そうに、だけど文句は言わず諦めたような表情で腕を引かれる元就さんがなんだか可愛く思えた。

…もう、来週には、元就さんは元の世界へ帰ってしまうから。
それまでに、元就さんがここにいた、って。私と一緒にいたんだっていう、証拠を、少しでも多く残していたい。
ずっと一緒にいたいけど、いられないから。せめて思い出だけでも、たくさん欲しい。

「じゃあ撮りますよー」
「はい!元就さん、笑ってくださいよ?」
「なぜ我がそのような…」

ハイ、チーズ。決まり文句を告げて、撮ってくれた人がデジカメのシャッターを押す。
パシャッ、と音がして、「ありがとうございます」と声をかけながら元就さんの様子を窺えば、なんとも言えない奇妙な表情をしていた。
そして撮ってくれた人は、デジカメの画面に映ったんだろう写真を見て、思わず吹き出してしまっている。

「貴様、何を笑うておる」
「ひっ!?すすすみませんつい…」
「ちょ、元就さん!すみません、ありがとうございました」

デジカメを受け取れば、その人は完全にびびりきった表情で手を振って走り去っていった。親切な人だったのに、申し訳ないことをしちゃったな。

ちらっとだけ元就さんを睨み、デジカメへと視線を戻す。
さっき撮ってもらったばかりの写真を確認して、思わず、私も吹き出した。

「っあは、元就さんすっごく嫌そうな顔!」

眉を寄せて、唇を尖らせて、私に腕を引かれる元就さんの眼差しは凶悪だ。
これは笑っても、仕方ない。

「……小晴」
「ゔっ、い、痛い…すみません…」

しかしすぐに頭をはたかれて、私の笑い顔は一瞬のうちに半泣きの顔になってしまったのだった。


――…


宮島の中にあるお土産物屋さんで見つけたのは、綺麗な石のついたミサンガだった。
薄緑色の石が、何色もの紐にくるまれている。

「かわいー…」

手にとって、まじまじと眺めてみた。

「それは何ぞ」
「、あ、ミサンガって言って、手首や足首につけて…自然と切れたときに願いが叶う、っていう…お守り?みたいなものです」

元就さんが私の手の中にあるミサンガを覗き込み、ふうんと喉を鳴らす。
こういう縁起担ぎみたいなものって、元就さんあまり興味なさそうなんだけど、意外とそうでもないんだろうか。
「買わぬのか」と問いかけられ、じゃあ、と二本のミサンガを、レジへ持って行った。
購入したミサンガは店の外で封をあけ、一本を元就さんに手渡す。

「お揃い、です」

自分のミサンガを掲げ、にへらと笑ってみせる。

元就さんは呆れたような、仕方ないなみたいな笑みを浮かべて、それを受け取ってくれた。
口では「くだらぬ」って言っていても、表情が、そうは言ってない。
それが妙に嬉しくて、私は頬をゆるませながらミサンガを腕に巻いた。…が、うまく結べない。

「…何をしておる」
「う、うまく結べなくて、」

はあ、溜息をつかれた。

「貸せ。我がやってやる」

元就さんは私の手からミサンガを取り、手首にきっちりと留めてくれた。
軽く引っ張ってみても、とれそうにない。
同じように元就さんは自分の手にもそれを結んで、薄く微笑んだ。

「して、小晴は何の願いをかけるというのだ」
「ん、んー…、内緒です」

だって元就さんが相手でも、人に言ったら、叶わなくなっちゃいそうだから。


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