ずっと繋がれたままの手。

もし今、友達に会ったりしたら、彼氏だと勘違いされるだろうか。
私だったら、多分するだろう。
でも、私と毛利さん、なんて。顔面スペックが違いすぎる。私はただただ普通、だと思いたい、のに。毛利さんは誰が見ても綺麗だ。
細い体、涼しげで、でもちょっときつい目元。薄い唇。絵に描いた人のよう、…って、まあ、そうなんだけど…。

だけど、今繋がれている毛利さんの手は、あたたかい。
私の手を引いて進む毛利さんの髪の毛が風に遊ばれて、私の家のシャンプーの匂いが薄く、鼻をくすぐった。

何でだろう、顔の熱はまだ、おさまらない。
それどころか、さっきより酷くなった気がする。


熱くて、苦しくて、なんだか鼻の奥がツンとして、泣きそうだ。
でも、それが嫌じゃない。
嫌じゃないんだけど、よくわからない。
何でこんな気持ちになるんだろう。…何なんだろう、これ。

繋がれている手に、視線を落とす。

きゅ、と少し力を入れてみた。
毛利さんは横目でちらと私を見下げ、目元だけで小さく笑う。それにまた、泣きそうになって、応えるように握り返された掌の感触に、胸が締め付けられた。


これは、この気持ちは、何なんだろう。



――…


「…花火、綺麗でしたね」
「見るには良いが、あれは五月蠅くてかなわぬ」
「ふふ、毛利さん、最初びくってしてましたもんね」
「その口を即刻閉じねば、縫う」
「縫う!?や、やめてください」

相変わらず、手は繋がれたまま。
締め付けられるような胸の痛みは少しおさまったけど、私は、ちゃんと毛利さんと話せているんだろうか。

至極愉しそうな笑みで私の口元を押さえてくる毛利さんに、まあ、多分話せてんだろうと若干遠い目になった。
この人は、なんというか……うん。


「来週、ちょっと遠出しませんか?」

ぽつり漏らした私の問いかけに、毛利さんはこちらを振り返る。

「前、お話した、厳島神社に」
「…ふむ」

毛利さんは口元に手を当てて、考え込んでいるようだった。
嫌、なのかな。

だけど私の不安をぬぐい去るように、毛利さんは言葉を紡ぐ。

「良かろう、我も先の世で栄える安芸の国を目にしたい」
「!じゃあ、行きましょう」

約束。大事な、大切な、約束だ。

毛利さんと一緒にいられるのは、あと、一ヶ月も無いから。
それまでをせめて、一緒に。


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