毛利さんには鶸萌黄色の浴衣を、私は毛利さんチョイスにより青藤色の浴衣を購入した。
セットの巾着と下駄も買って、さて、お祭り当日。

「毛利さんもこの格好に見慣れましたね」
「貴様がどれだけ言うても直さぬからであろう」

私はキャミソールにショートパンツの格好で、毛利さんに浴衣を着付けてもらっていた。
ちょっと恥ずかしいけれど、最近では毛利さんも、私がこの格好で部屋をうろついていてもため息を吐くだけで何も言わなくなってきたし。
毛利さんはてきぱきと私に浴衣を着せ、帯も綺麗に結んでくれた。
…こんなの、どこで覚えたんだろう。異性の着付けも、基本なのかな。

「ありがとうございます!」

簪で留めた髪の毛が首筋をくすぐる。
鏡の前でくるりと回ってみれば、浴衣姿の自分が新鮮でなんだかテンションが上がった。

巾着の中に財布と携帯、鍵や小物を入れて、毛利さんと二人、部屋を出る。
ああ、お祭り、楽しみだ。



毛利さんと並んで歩きながら、さっき買ったばかりのかき氷を掬って食べる。
しゃくり、口に入った氷は一瞬で溶けて、冷たさと甘さに顔が綻ぶ。祭りと言えばやっぱり、かき氷だなあ。
私はイチゴミルク、毛利さんは宇治金時を食べながら歩いて、次は何を買おうか、久しぶりにお面を買ったり金魚すくいをしてみようかなどと会話を続けた。
…話しているのは、基本的に私だけだったけど。

「あ、毛利さん舌が緑になってます」
「…む、」
「私も赤くなってますかね?」

喋っている最中、ちろりと見えた毛利さんの舌は宇治金時のシロップによって緑色に染まっていた。
友達内ならエイリアンみたーい、なんて言えるが、さすがに毛利さん相手にそんな命知らずな事は言えない。

多分私もなってるんだろうな、と舌を軽く出してみる。
すると直ぐさま、頭上から平手が後頭部に落ちてきた。

「痛い!」
「しょうもないことをするでない」
「だからっていちいち叩かないでくださいよ…」

叩かれた頭をさすり、唇をとがらせる。
手を出す前に口で言ってくれればいいのに。そういうとこが毛利さんはダメだ。


空になったかき氷のカップをゴミ箱に捨て、再び散策開始。
早い時間だからか、さっきまではまばらだった人もだんだん増えてきた。それでもすれ違う人々とめったにぶつからないのは、日本人の習性故だろうか。

「焼きそばと唐揚げは花火の時に食べるとして…次は何を食べようかな」
「まだ食べるのか…」
「まだって、まだかき氷しか食べてませんよ」

ぱっと目に留まった牛串の列に並び、いそいそと財布を漁る。
五百円玉を二枚取り出して、牛串と豚串を一本ずつ頼んだ。

「はい、毛利さんには豚串です」

無言で串を受け取り、毛利さんは静かに豚串へ口を付ける。
私も牛串を頬張って、このタレと炭火の感じが美味しいんだよなあと口を動かした。もぎゅもぎゅ、溢れる肉汁にここの牛串は当たりだと笑みが浮かぶ。

「毛利さん、金魚掬いとかやります?射的もありますよ」
「…我はよい。貴様がやりたいのならば、すれば良かろう」
「ううん…私はやっても何も取れないんで。まあ、欲しい物もないんですが」

お遊びのコーナーを通り過ぎれば、花火のために場所取りをしている人たちが見えてくる。
牛串はとっくに食べ終え、さっき買った焼きそばと唐揚げが袋のなかでがさりと揺れた。

「お、わっ」

花火って何時からだったかな、と考えていたら人とぶつかりそうになり、腕を素早く後ろに引かれる。
誰がなんて、考える間もない。とすんと背中に温もりがぶつかって、慌てて謝ろうとすればまた頭をはたかれた。
…この調子で叩かれ続けていたら、その内身長、縮むんじゃないだろうか。

「毛利さん、」
「何ぞ、その目は」
「……いえ、ありがとうございます…」

叩いたことへの文句は言いたいが、それ以前に人とぶつかりそうだった私を助けてくれたのもこの人だ。
仕方なくお礼を言い、未だくっついたままだった体を離そうとする。

体はあっさりと離れたが、手は、するりと繋がれていた。
あの時みたいに手首を掴んでいるんじゃない。掌同士が、ちゃんと触れている。
その事実に気が付いて、火がつくかのように、一瞬で顔が熱くなった。

「え、あ、っえ、毛利さ…っ」
「ふらふらとするでないわ、放っていれば貴様は迷い子になりかねん」
「そこまで子供じゃ、ないですよ…」

「良いから我の手を掴んでおれ」と、毛利さんは握る手に力を込めた。

どうしよう、手が、顔が、熱くてたまらない。


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