昼休みと同時に放送で呼び出され、じりじりと太陽に照らされて熱されている廊下を歩き、生徒会室から応接室に向かう。

もう七月。
二ヶ月も着ていれば、校内でセーラー服が私一人だけでも不本意ながら慣れてきた。というか、慣れざるを得ないと言うか。
兎にも角にも元凶であり友人でもある雲雀さんには相変わらず逆らえない私は、暑さでゆるめていたセーラー服のスカーフをきちんと締め直して、応接室の扉を軽くノックした。
入って、と聞こえた直後に扉を開け放てば、ひんやりとクーラーの冷気が身体を通り抜けていく。
応接室に空調設備があるのは当然のことだけど、それを今、私はとても感謝していた。

「……、?」

でもそんな思考は、視界に入ったあるモノで完全にどこかに吹っ飛んでいった。
応接室は、いつもとなんら変わりない。雲雀さんがいて、ソファーと机があって、たくさんの書類があって。
なのに一カ所だけ、明らかに今朝まではなかったものが、堂々と応接室の一角を占領していた。
それは……笹。

「どうしたんですか、この笹」
「ああ、これのこと?」
「他に何があると」

ちらりと笹に視線を向けたあと、こっちに顔を向けて小さく口角を上げた雲雀さんが、何か四角い物を私に投げつけてきた。

「ぃい゙っ!?」

逃げることもキャッチすることも出来ず、それはものの見事におでこにクリティカルヒットしてしまった。
しかもちょうど角。厚さはそんなに無いとはいえ、角。
痛くないわけがないっつーかなにこれすごく痛い泣きたい!
私のおデコにぶつかって床に落ちた四角いもの、を拾えば、それは折り紙だった。50枚入りの、カラフルなやつ。これを雲雀さんに手渡さ……投げ渡されたのにも驚きだけど、これってぶつかってそんなに痛いものかな……。
折り紙ですら凶器にしてしまう雲雀さんに一抹の不安を覚えながら、折り紙を手にソファーの定位置に腰を下ろした。

「鈍くさいよね、君」
「私はあくまで標準です。てか何なんですかこの折り紙」
「……光、カレンダー見てないの?ニュースは?新聞は?」
「何その可哀相なものを見る目」

カレンダーにニュースに新聞て。
言われなくても笹を見れば「ああそういや七夕だなあ」ぐらいの思考には辿り着きますよ。
とは言っても、今年の七夕は土曜日で今日は金曜日。まあ土曜日にまで学校には普通来ないから、今日のうちに七夕やっちゃおうっていう話なんだろう、なあ。

「七夕でしょ?まさか、これで短冊とか飾りとか作れって言うんですか」
「なんだ、わかってるじゃない」
「どうしよう当たっちゃった!」

雲雀さんって季節の行事かなり楽しんでるよね!
てか去年はやってなかったような……また何で今年はやろうと思い立ったのかが謎だ……。

ちゃっかり机の上にはのりとハサミが用意されていて、雲雀さんコレ確実に七夕のためだけに私を呼んだな……と遠い目をしながらも、おとなしく折り紙にハサミを入れていく。
短冊は風紀委員の人と生徒会の子たちの分も作って、飾りはなけなしの記憶をたどって適当に切って貼っていって。
机いっぱいに七夕飾りを広げて、折り紙を使い切ったことを雲雀さんに伝えたときには、既に一時間以上経っていた。
……なんだか、かなり無駄な時間を過ごした気がする。

「じゃあ飾りは笹につけて」
「うーい」

ぴょんとソファーから降りて、飾りを両手に抱えて窓に立てかけてある笹の前に立つ。
立派な笹に感嘆しながら、適当に飾り付けていった。黄色い折り紙で作った、今はまだここにはいないヒバードも飾ってみたりして。
飾り終えてからは机に戻って短冊を1枚手に取り、雲雀さんに渡す。雲雀さんは短冊を無言で受け取って、代わりにペンを私に向かってぽいっと投げた。
今度はぎりぎりキャッチできて、ふうと安堵。

「光も願い事、書いてね」
「はあ。意外とロマンチストなんですねえ、雲雀さんも」
「何変なこと言ってんの」

呆れ笑いを漏らして、雲雀さんの視線は短冊に落ちた。
私もソファーに再び座って短冊に向かい、何を願おうかと思案する。

リボの好きキャラ全員に名前で呼んでもらう……は目標だけど、さすがにこんなとこで書いて読まれるわけにもいかないし。
お金もあるしトリップはできたし、おや、どうしよう。特に願うことがないぞ。

「……参考までに、雲雀さんは何をお願いするんですか?」
「群れ殲滅」
「それ目標ですよね!」
「そういう君はどうなのさ」
「悩んでるから訊いてるんじゃないですかー」

らしいっちゃらしい返答にくすくすと肩を震わせて、さて何を書こうかと今度こそペンを握り直す。
どうせ特に願うこともないんだし、月並みな願い事でもしておこっか。
……うん、そうしよう。

思いついたままにペンを短冊に走らせ、ちゃちゃっと笹に飾り付けてしまう。
雲雀さんの「群れ殲滅」も笹に飾って、とりあえず他の風紀委員と生徒会メンバーには後日短冊を配ろう。

「で、光。何を願ったの」
「教えて欲しいですか?」
「その顔むかつくからいい」
「ちょっ失礼な!」

私を鼻で笑う雲雀さんに、怒っても無駄だとは思っても口元がひくつく。
ちょっと神様か彦星様か織姫様かわかんないけど、さっそく願い事叶ってないんですが!


(みんなと楽しく暮らせますように、だなんて、甘い子だな)

 
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