言うべきか言わざるべきか。
ツナのことを考えるなら早く教えてあげるべきなのだろうけど、まず何で誰も気付かないのかを私は問いたい。特に獄寺。ハルは例外。
男子の十五メートルテスト……平泳ぎだって。

まごころ指導、感覚指導、理論指導、どれが一番なのかを争っている三人は当初の目的を忘れかけているんじゃなかろうか。
リボーンに渡された大きなバスタオルで身体をくるんだまま、プールサイドに座ってその様子をどうすべきかと眺めた。
言っていいのかなー、いけないことは無いよなあ。でも海に行ったときのあれではこのクロールが使えるわけだし……ううん、悩みどころ。
いや、クロールはまた別の機会に覚えればいいわけで、今はテストに受かるための練習なわけだし、やっぱり平泳ぎなんだよって教えるべきかもしれない。
中学生くらいの子が異性に混じってプールに入るとか、恥ずかしいだろうし。

「あのさー」

じゃあ一人三十分ずつでツナが何メートル泳げるようになるか勝負な!みたいに話し合ってる、喧嘩腰のハルと獄寺にいつも通りの山本、置いてけぼりのツナに向かって声をかける。
さっき、少しの間キレててそれ以降黙り込んでいた(考え事してただけだけど)私がいきなり喋ったからか、四人はびくりと肩を震わせてこっちを振り向いた。いやそんなビビらなくても。

「なんか水を差すようで悪いんだけど、男子のテストってクロールじゃなくて平泳ぎじゃなかったっけ?」
「「……あ」」
「、え?」

そして練習は、急遽平泳ぎへと変更された。
てか「……あ」って、山本と獄寺やっぱり忘れてただけなんじゃん。しっかりしようぜ。しめるとこシメていこうぜ。

まあでも、やることは変わっても獄寺と山本とハルの意見は変わらないらしく。
結局五mくらいツナが泳げるようになったところで、また指導方法云々で三人は争い始めた。
……うん、楽しそうだからもういいよ。

山本の感覚指導で三十分。
ハルのまごころ指導で一時間。
獄寺の理論指導で一時間半。
結構な時間が経ったところで、ツナがとうとう弱音を吐いた。
その言葉に心の中でうんうんと頷きながら、私はじっと、三人の慰めの言葉を聞いているツナを見つめる。

「みんなありがと……。でも、もういいよ……」
「……、」
「そんな簡単にダメツナから変わんないよ……これが俺の実力なんだ。急に泳げるようになんて、なるわけないって」

ツナの言葉を聞いて私はすっくと立ち上がると、山本と獄寺の間を通ってプールサイドにしゃがんだ。
こっちに近寄るようツナを手招けば、クエスチョンマークを浮かべながらもとぼとぼ歩いてくる。手の届く位置まで来たツナのほっぺを、私はにこりと笑ってから軽く引っ張った。
いたたた!って言ってるっぽいけど、口を引っ張られてるせいでうまく発音できてないのが可愛い。

「ねえツナ、自分で自分のことダメツナから変わんないなんて言ってたら、本当に変わらないよ」
「、……っ」
「もう二時間も練習してるんだよ。みんなに会う前のツナが、そんなに練習しようと思った?」

喋れるように、ツナのほっぺから手を離す。
ツナは困惑気味の目で私を見上げて、ふるふると首を左右に振った。

「思わなか、った」
「でしょ?ほら、ツナはこんなにも変わってるんだよ。中学生なんて伸び盛りじゃない、変わらないわけがないって!」

ぱんっとツナのほっぺを両手で挟む。

「私の大好きなツナの実力が、こんなもんなわけないよ」
「んな……っ」
「そうだぞツナ、おまえに足りないものを教えてやる」
「……え」

咄嗟に、リボーンのあの独特な声が聞こえた瞬間に、ツナから手を離してしまった。
人間我が身が大切とは言え、悪いことをしたなあと思いながらも足は順調に後退している。
直後、どこからかなかなかに強そうな電流が走った。

「じしんだ」
「ひぎゃあああ!!」

痛い……痛いぞあれは……。
普通だったら水場で電流とか、非常識にもほどがあるんだけど、やっぱりそれはそれ、この世界なら大丈夫らしい。
自信と地震をかけて、地震を予知するらしいナマズでデンキナマズまでかけて、しかも衣装は自作っていうリボーンの熱意には感服するけど……ううん。

「でもリボーンちゃんの言ってること、正しいかもですよ」
「ああ。自信って大事だぜ」
「え、で……でも、自信って言っても」
「まあ、周りが大丈夫って言ってつくものでも無いからねえ」

へらりと苦笑すれば、ツナがふと私に視線を向けた。
首を傾げるとちょいちょいと手招きをされて、またプールサイドへと近寄る。

「あのさ、光」
「ん?」
「さっき言ったこと……もう一回言ってくれない?」
「さっき、って」

いつの。
疑問符を浮かべる私に、ツナはリボーンが出てくる前に言ってくれたことだって照れくさそうに教えてくれた。
ああ、あれか。何で?とは思ったけど、まあ言うのは別にかまわないからゆっくり口を開く。

「私の大好きなツナの実力が、こんなもんなわけないよ」
「……うん、ありがとう、光」

俺も大好きだよ。

そう言ってほんの少し切なそうに笑ったツナは、その後無事に十五メートルを平泳ぎで泳ぎ切った。
獄寺も山本も複雑そうな表情をしていたけど、それは後でハルに聞くまで、私は知らなかったことで。
泳げたよ!って喜ぶツナにおめでとうと答えながら、私は了平さん出て来なかったなあなんてぼんやり考えていた。

 
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