ふらつく身体とうまく働かない思考で、よろけながら倉庫を抜け出した。
半壊状態の倉庫には、たくさんの血がこびり付いている。でも、死体は、ほとんどない。
拒絶が、イコールで消滅に繋がることを理解したのは、今日が初めてだった。
今まで、こういう形で他人を拒絶したことは、なかったから。

「……気持ち、悪い」

何回も吐いて、もう胃の中には胃液しか残ってないってのに、また吐いた。
気持ち悪い。泣きたい。苦しい。人を殺すって、こういうことなんだ。重たくて重たくてたまらない。
あの男の目が頭から離れない。

「ー……っ、光!?」

前方からの足音に、びくりと全身が硬直する。
今の私は血まみれで、そんな姿をツナたちには見られたくなくて、咄嗟に逃げようと動いた身体を、一瞬早く私よりも大きな身体に包まれた。
ふわりと香る、お日さまの匂い。

「……ディーノ、さん」
「っ怖かったよな……。悪い、遅くなって」

優しくて温かい手に、頭を撫でられる。
血だらけの私に何があったかなんて、今来たばかりのディーノさんにはわからないはずなのに、全部見透かされているような気がして。
ずっと堪えていた涙が、目から零れた。

「わたっ、私……こんなこと、したくなかったのに、っ帰れたら、それで、良かったのに、なのにっ……!」

みんな、死んじゃった。

私の言葉に、ディーノさんの身体が強張った。
その間に倉庫の方へ行っていたディーノさんの部下たちが、真っ青な顔でこっちに戻ってくる。

「ボス、倉庫には誰もいなかったぜ」
「ただ……腕、みたいなのと……大量の血、が」
「人はいねえんだが、肉片みたいなものが……」
「あれは、いったい、」

耳を塞ぎたいような言葉。だけど、それが現実だ。
ディーノさんがそうっと私の両耳を押さえる。「もういい」と、微かに声が聞こえた。

「……ボス、」
「俺は光を病院に連れてってくる。おまえらは後を頼む。ロマーリオ、行くぞ」
「、ああ」

盗み見るようにディーノさんを見上げてみれば、ぱちりと合った視線。
ディーノさんはすごく悲しそうな顔で、眉尻を下げて、私の頬についた血を指で拭った。そして、抱き上げられる。
私の肩に顔を埋めたディーノさんの腕の力は思ったより強くて、小さく息が洩れた。

「俺たちがもっと早く来ていれば……光にそんな思い、させなかったのに……」

ごめん、……ごめんな。

車に乗り込むまで、車に乗り込んでもずっと。ディーノさんは私を離さずに、謝罪の言葉を紡ぎ続けた。

お日さまの匂いがしたディーノさんが、ずっと私を抱き締めるから、私の身体についた血の臭いがディーノさんにも移っちゃって、太陽の匂いが掠れていく。
それが嫌で離れようとしても、ディーノさんの力には、適わなかった。

吐き気と不快感は、いつの間にか消えていた。
その代わりに私の心中を占めたのは、どうしようもない罪悪感と、自分自身への恐怖。

 
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