流血


光の胸元で、黒く、鈍く輝くリング。

宵のリングとしてボンゴレに伝わるそれは、永劫世に出る筈のない、禁断のリングだった。
持つ者を絶対に守護する。しかし、持たない者を永久に拒絶する。

宵の属性は、拒絶。

保持者の心と身体に害をなすモノが存在することを、リングは許さない。すなわち、存在の拒絶。
そのリングは、初代宵の守護者が破棄したはずだった。彼女自身が、リングを拒絶したのだから。リングは自らを拒絶し、そのとき、リングは粉々に砕け散った。

そのリングが刻を経て、今、光の胸元で輝く理由は誰も知らない。
けれどそのリングのお陰で、少なくとも今、光の命は救われた。


――…


人はこんな声が出せるのか。
どこか冷静な頭で、呆然と目の前の光景を眺めながらそう考えた。

今までは私をぎりぎり包み込めるくらいの大きさでしか出てこなかった薄墨色の球体は、今は、私を中心に半径二メートルくらいまで広がっていた。
ちょうど、私に銃を向けている男の、肘の少し上辺りまでの距離。
そして今も、徐々に大きくなり続けている。
この球体は、私が拒絶したもの、私の命に関わるもの、それらすべてを拒絶する。この世界から、排除する。

私は何も知らないのに、頭にはリングについてすべてのことが浮かんできた。
男の腕の断面から、ごぷりと血があふれる。

「ってめぇ何しやがったァ!!」
「ボス!!」
「ガキを殺せぇ!」

一斉に響く銃声と怒号。

男に駆け寄り私に怒鳴る人がいた。怒鳴りたいのは私の方だ。
こんな非現実を望んだ訳じゃないのに。

男に駆け寄り泣き叫ぶ人がいた。泣きたいのは私の方だ。
死にたくはなかったけど、怪我を負わせたかったわけじゃないのに。

私に発砲する人たちに視線に、気付いた。
確かに何発打たれてもその弾自体が身体に届くことのない私は化け物じみているかもしれない。
でも私には、こんな子供に何発も弾丸を放つあなた達の方が、化け物に見える。


ただ、逃げられれば良かった。死ななければ、それで良かった。
現実って、うまくいかないなあ。
くしゃりと前髪を掴んで、唇を引き結ぶ。

薄墨色の球体は、倉庫の中すべてに、広がった。


血まみれの倉庫に、血まみれの自分。
どうしてこうなったんだろう?何も望んでいなかったのに。

「……わけわかんない、もう」

死にたいのは、こっちの方だ。

 
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