イライラとした様子であちこちに連絡を取っているマフィアのおっさん達に、心の中でため息をつく。
もう、少なくとも二時間はこの状態だ。何も進展ないし、手足は痺れるしのどは渇くし、いい加減飽きてきた。
まあだからと言って、私には思考する以外、何もできないのだけど。

スーパーから車で二十分程度。時間を考えたら、並盛からは出てないはず。それか外れの辺りか。
そしておっさん達の怒鳴り声に紛れて、たまに聞こえてくる波の音。……なんとなくの想像で言えば、並盛海岸の廃工場とか、そんなとこだろう。ベタな場所だし。
まず人目につかないからね、ここ。

にしても獄寺、晩ご飯どうしたかなあ。私の帰りが遅いってキレてるかも。
ううん……でもこの異変に気づいて、運良くここに辿り着いてくれるって展開も、できれば勘弁したい。
彼らの強さは知っているけど(雲雀さんだけでもここの全員伸せそうだし)、極力危険な目には遭ってほしくない。ただでさえ危険な世界にいるんだから、これ上は。

……いやでもやっぱ助けてほしいかもな!
くっそう私が最強設定とかだったら……さっさと帰るのに……!平凡最高とか思ってたあの日の自分を殴りたい。
ちょっと中学高校の問題余裕で解ける程度のレベルで頭良いからって意味無いじゃんね!

口の中で小さく舌打ちをした、直後。

ギギ、と軋みながら、今いる場所の大きな扉が開く。
扉の向こうには一人の男が居て、今までここに居たおっさん達の反応を見るに、そいつはこいつらのボスのようだった。まあ確かに、こいつらよりは強そう。
男はカツカツと革靴を鳴らしながら、私に歩み寄ってくる。
そして無様に横たわった私のすぐそばにしゃがんで、ぐいっと顔を近付けてきた。……おおう、予想外にイケメンじゃないですか……。
びっくりして目を丸くする私に、イケメンはふっと小さく鼻で笑って、私のあごを細い指で掬った。

「沢田綱吉……何の変哲もない、ただの子供じゃないか。こんな子供がボンゴレを継ぐなど、嘆かわしい……」

あっだめだわ。パスです。
この人あれだね!自分に酔っちゃってるタイプだわ!あの「嘆かわしい……」のとこで頭を抱えたのはアウトでーす。格好良さ半減。
良いとこ、全部顔に行っちゃったんだね……残念だ……。

「この俺が引導を渡してやろう。ボンゴレに生まれついた自分の血と運命を呪いながら、死になさい」
「……っ!?」

っちょ、え、まじで?

男は私から手を離すと、懐から銃を取り出し、三歩ほど後退して銃口を私に向けた。
前に、リボーンに銃を向けられたことはあった。でもあのときのリボーンは、殺意とかは無くて、私を試しているだけだったから、そこまで怖くなかった。

けれど……今は、違う。
この人は、殺す気で私に、この銃を向けている。

ぞわっと全身が総毛立った。嫌な汗が背中を伝っていく。
男は気味の悪い笑みを浮かべて、引き金に指をかける。

「……や、だ」

私の声は噛まされたままのタオルのせいで声とならなかったけど、目尻に浮かんだ涙でそれを察したのか、男はまた鼻で笑った。

「楽に死ねるよう、一発で仕留めてやるさ」

乾いた銃声が、倉庫内に響いた。


――…


珍しくチャイムも鳴らさず家に上がり、ドアが破れるんじゃないかってくらいの勢いで俺の部屋に入ってきた獄寺君は、今まで見たことのない切羽詰まった表情で、それは、泣きそうにすら見えた。
大きく肩を上下させて荒い息を吐きながら、何かが起きたことを伝えようとする獄寺君。
けれどなかなか聞き取れなくて困惑する俺の前で、リボーンが獄寺君に水を差しだした。
いつもならそこで「すみませんリボーンさん」とかって言いそうなのに、そんな余裕さえも無いのか獄寺君は無言でそれを受け取って、一気にのどに流し込む。

「それでどうしたんだ、獄寺」
「あいつが……、っ光が、消えちまったんです……!」
「ーっ光が?!」
「……説明しろ」

リボーンの目つきが、少しだけ鋭くなったように見えた。
獄寺君はドアの前で正座して、顔を顰めながら今までに起きたことを説明してくれた。

買い物に出て行った光が、二時間経っても帰ってこなかったこと。
公園も商店街もスーパーも、学校までも探したのに見つからなかったこと。
連絡しても携帯が繋がらないこと。
スーパーの駐輪場に残されていた、光の自転車と買い物袋も。

「申し訳ありません十代目……っ!俺が、しっかりしていれば!」
「っで、でも何で光が?誘拐される理由なんて、どこにもっ」
「光はすでにボンゴレの人間だぞ。それだけで充分な理由だ」

あっさりと言うリボーンに、やり場のない怒りをぶつけそうになる。
でもリボーンがぎゅっと唇を噛んでいるのが見えて、俺も口を噤んだ。

「……獄寺君の所為じゃ、ないよ」
「ですがっ……!」
「とにかく、今は光を見つけるのが最優先だ」
「でも、何の連絡も無いのにどうやって……」

ボンゴレの情報網を舐めんなよと呟いたリボーンは「おまえらは光の携帯に電話をかけ続けとけ」と告げて窓から外に出て行った。

何もできない。
そんな歯痒さで足を動かしそうになる自分を必死に諫めて、獄寺君に振り返る。

「……そうだね、もしかしたら、光が出るかもしれない。かけ続けてみよう、獄寺君」
「十代目……」
「俺、山本にも電話してくるから」
「っ、わかり、ました」

すぐに携帯を取り出した獄寺君を部屋に残し、俺は階段を駆け下りていった。

 
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