二年生になって、光とクラスが離れちまった。
それは……なんつーか、授業中の何気ないあいつの仕草だとかを近くで見てられなくて、B組の奴らは見れるんだと思うとむかつくと思った、けど、仕方ねえことで。
それよりも俺が苛ついて堪らないのは、二年になってクラスも変わってから光が着はじめた、セーラー服。
左腕にある「生徒会会長」と「風紀委員会」の腕章も、俺の苛立ちを煽る。
生徒会と風紀委員の仕事が忙しいからと、毎朝、飯を食べ終わったら十代目のお迎えにも行かずすぐに学校に向かって、帰りも俺や十代目と帰ろうとしない。できない。
その代わり雲雀とずっと一緒にいる光の姿を見るのが、嫌で……何度も目を背けた。

俺のが、雲雀なんかより、ずっとあいつの近くにいたのに。

そんな俺の苛立ちにも気付かずへらへらと笑う光には、いつもなら脱力してしまうのに、今は尚更怒りがつのる。
光の家で飯食って、ある程度の時間まで二人でぐだってんのは、いつの間にか普通になっていた。その普通を、雲雀に侵されたような気がして、意識せずとも眉が寄る。
飲むでもなくコーヒーのカップを手で弄んでいた光が、ふと視線をこっちに投げかけてきた。

「テレビ、面白くない?」
「は、あ?」
「いや……いつもならぼけーっとしてんのに、今日はなんか顰めっ面だから」
「ぼけーっとしてんのはてめえだろ」
「なんだと」

数秒、静まったリビングに、光が見ていた陳腐な恋愛ドラマの声だけが響いた。
……そんだけ簡単に好きな奴と結ばれたら、誰も苦労しねえよ。そう思いながら、テーブルの上に乗っていたリモコンに手を伸ばし、ぷちっとテレビの電源を切った。
ああ!と光が声を上げる。

「何すんの!」
「どうせ録画してんじゃねえか」
「生で見るのがいいのに……。獄寺だって毎週見てたじゃん」
「それは……」

おまえと、光と此処にいたかったから、なんて言えるわけもなく。

「……、」

黙り込んだ俺に光はきょとんと目を丸くして、俺から奪い取ろうとリモコンに伸ばしていた手をおろした。

例えば山本なら、ここであっさり、光が喜ぶようなセリフを言ってのけるのだろうか。
例えば雲雀なら、何も考えずにするりと、光を微笑ませることを言えるのだろうか。
俺は何も言えねえし、……言うつもりも、無い。もしかしたら光のことを、十代目も。

「……はーやっとくーん」
「、っ!?」

ぐい、っと、俯いていた俺のすぐ目の前に、光の顔が近寄ってきた。びっくりして仰け反れば、ガタンとソファーが揺れる。
光は、何かを、言おうとしている。その目がいやに真剣で、ばくばくと心臓が鳴る。

「宿題手伝ってー?ドラマも終わっちゃったし、歴史のプリントでわかんないとこが一個だけあるんだよねー」
「……宿、題」
「そ、宿題。訊けるの獄寺だけなんだもん」

その言葉に、心臓は一際大きく鳴った。

「俺……だけ?」

思わず聞き返した。
わずかに目を見開いて、光が口にした言葉を、胸の中で何度も何度も反芻する。たかが宿題のことだ、けど。

「獄寺だけ。やっぱり君のが頭良いしね」
「……っは、当然だろ」
「うわ嫌味」
「どこがわかんねえんだ?持ってこいよ、そのプリント」
「ん、わかった。お願いします獄寺せんせー」
「変な呼び方すんじゃねえ!」

……俺だけ、か。

自分の部屋にプリントを取りに行った光の背中を見送って、へらりと頬を緩める。
呆れるくらい単純だな、俺。たかがこんだけのことで、もう全部どうでもよくなっちまった。
でも……ま、悪くねえ。

 
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