生徒会長兼風紀委員になって早数日。仕事にも嫌々ながら慣れてしまった。人の順応性ってすごいね。
教室には滅多に行かないものの、応接室や生徒会室で自主的に勉強はしてるのでテストは問題無し。プリント類も貰ってるし。
ただ、セーラー服で登校しだしてからは、元A組の子たち以外みんな、私に近寄らなくなったのが寂しくもある。
生徒会の人が良い人たちばっかりだったのが不幸中の幸いか。


そんな私は今、多少の嫌な予感を感じつつも、山本含む野球部メンバーと何故かボウリングに向かっています。
応接室にいきなり山本が入ってきたときは心底焦った。雲雀さんがたまたま席を外していてほんとに助かった。
用件はそのまま「ボウリング行かね?」で、まあたまにならいいかーってちょうど書類も終わったところだし、ついてきたんだけど。
しかし野球部メンバーで来てんのにお邪魔して良かったのか……。一応山本繋がりでみんな顔見知りだけど、なんかすごい場違い感。
まあ野球部の子っていい子達ばっかなんだけどね。だからこそ悪いなあみたいな。
うーん、と山本の隣を歩きながら考え事をしていたら、部員の一人がふと思いついたように話しかけてきた。

「会長ってボウリング出来んの?」
「……会長……いや間違ってないけど……」

小さい声で呟きながらなんだか微妙なショックを受けてしまう。そうか、私のニックネームは会長になってしまうのか。
そのショックを取り敢えず受け流して、へらっと愛想笑いを浮かべた。

「出来なくはないよ、下手だけど」
「そーなんだあ」
「んじゃ、俺が教えてやるのな」
「まじで?山本上手そうだもんね」

山本は、任せろって!と爽やかに笑う。
けど、そこではたと気付く。私は山本のあの、感覚的指導を理解出来るのか……。まあそれは実際に体験しないとわからないか。

「そーいやーさ、」
「ん?」

更に部員くんが、山本の肩に手を置いて不思議そうな顔を私に向けてくる。
クエスチョンマークを浮かべる私と山本に、その子の表情はにんまりと楽しそうな笑みに変わった。

「かいちょーと武って付き合ってんのか?」
「なっ、おま、何言ってんだよ」
「だってかいちょーと武、すっげえ仲良しじゃん。みんなもそー思うよな!」
「あー確かに」
「よく部活見に来るもんなあ会長」

最初に発言した子に同意して、みんなが私と山本の仲良しさを話していく。なにこれちょう恥ずかしいんですが。そして会長ってニックネーム浸透すんの早いな!今まではみんな五十嵐って呼んでたのに!
困ったなあなんて笑う私の隣で、山本は顔を赤くして珍しく慌てたように口をぱくぱくさせている。言葉が見つからないらしい。
前バッティングセンターで同じようなこと言われたときは、顔は赤かったけどあっさり否定してたのに。
まあ中学生ってこういうネタ、言うのは好きだけど言われるのは苦手だもんねえ。てか山本、別に好きな子いるのに、私と付き合ってるって勘違いされたら困るんじゃ?でも思いっきり否定するのも、なんかアレだしなあ。

「……とりあえず、私と山本は付き合ってないよ、友達。ね?山本」
「えっ?!あ、ああそう、うん!そーなのな」
「え?へえ、そうなんだ」
「なんだ違うのかー」

うんうん!って何度も頷く山本に、まああの山本だもんな!って部員の子たちは納得してくれた。よかったよかった。
万が一にもこの勘違いが山本の好きな子に伝わっちゃったら可哀相だもんね。

そんな感じで話を続けながら、辿り着いたボウリング場に入っていく。
中で部員の何人かが受付をしている間にきょろきょろとボウリング場の中を見回したのは、なんか聞き覚えのある声が聞こえたような気がしたからで。

「……?」

でもその声はもう聞こえなかったから、見回すのをやめて山本の後ろを追いボウリング用のシューズを取りに行った。


――…


無理矢理俺をボウリングに誘ったくせに、帰ってしまったロンシャンを恨みながら必死に近寄ってくるこの怖い人たちから逃げようともがく。
リボーンもあてになんないし!こんなことならやっぱり来るんじゃなかった!
光に隠れてこんなところ来たから、きっと罰が当たったんだ。

「……ツナ?」

ははっおかしいな、なんか幻聴まで聞こえてきた。ここに光がいるわけないのに。
でも、光の声はほんとにハッキリ聞こえて、もしかして本当に光がここに……?なんて期待しながら、後ろを振り向く。

「やっぱりツナじゃん!」
「ほら、だからツナだって言ったのに」
「光!、と……山本!?」

そこには、光と山本が並んで立っていた。なんで、二人で?
もやもやとした何かが胸の中を渦巻く前に、にかっと笑った山本が、山本たちの後ろにいる学生を指さす。

「野球部の連中と遊びに来たんだ」
「私は付き添いみたいな」
「え、あ、そうなんだ……そっかあ」

良かった、と、心底思った。もしかして光と山本が、二人っきりで来たのかと思ったから。
ぴたりと止まった俺のすぐそばにいる奴らに、このまま山本のとこに行ってくれるかと期待する。山本には悪いけど、これでやっと助かるかもしれない!
カンペンケースにもストラップにもなりたくないし、せめて今だけでも逃げ切りたい!
そっと振り返れば、けれど2人ともブンブンと顔を左右に振っていた。
そして。

「おまえの方がタイプ」

と宣いやがった。

「うそー!!」
「やっぱりおまえカンペンケースにする」
「たっ助けてーっ!」

服を鷲掴まれて、ずるずると引っ張られていく。
山本と光に向かって必死に手を伸ばすも山本はけらけらとわかってるのかわかってないのか楽しそうに笑っていて、取り合ってくれない。
いつの間にか着替えたリボーンも俺を馬鹿にしながらこっちを見ていて、俺と光達との距離はどんどん離れていった。

……あ、俺終わったな。そう悟って涙を拭ったそのとき、伸ばしていた右手をしっかり、掴まれた。
びっくりして顔を上げると、そこにはむっと眉を寄せて立っている光の姿が。

「おいで、ツナ」

ふわりと光が笑った瞬間に、服を掴んでいた手の力がゆるむ。
それを見逃さずに俺の手を引っ張った光は、ちらりとロンシャンが呼んだ奴らに鋭い視線を向けた。
けどすぐにその表情は元に戻り、柔らかい笑みを俺に向ける。山本の側まで無言で引っ張られて、きょとんとしている山本の隣に辿り着くと、光は俺から手を離した。

「駄目だよツナ、中学生が合コンなんかしたら。リボーンに言いくるめられたのかもしれないけど、お持ち帰りされちゃったらどうするの!」
「す、すみませんでした……」

どっちかっていうとそれは女子への説教じゃないのだろうかと思いつつも、不機嫌そうな光にすぐさま謝る。
確かに、ある意味持ち帰られそうになったのは事実なのだし。
それより、怒ってくれてるってことは、少しでも今の状況を見て……嫉妬してくれたのかな。なんて。
気になって、それを訊こうと顔を上げる。でも、そこに光の姿は無かった。

「あれっ……」
「光なら、あっちにツナも一緒に遊んでいいか訊きに行ったぜ?」
「え?あ、そ、そうなんだ」

なんだ……。
肩を落とす俺の前で、山本は相変わらず爽やかに笑っている。

「残念だったな、ツナ」
「え?」

ふんふん鼻歌を歌っている山本は、にっと笑って光のいる方に駆けていった。
その「残念だったな」の意図がわかったと同時に、はっと気付く。
もしかして山本も……光のこと。

光の頭にあごを乗せて野球部の人たちと話をしている山本が、一瞬こっちを向いてにこりと笑った気がした。
その笑みは、動物園に行ったときに見た、京子ちゃんの笑顔と……そっくりだった。

 
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