(京子ちゃん/ツナ君がいなかったらデートなのに!!)

……なんて、私を挟んだ2人が火花を散らしてることを私は知らなかった。


――…


アライグマがいるところまで、ほぼ強引に光を引っ張っていく。
ちらっと視線を京子ちゃんに向ければ、俺に向かってにこにこともう決して無邪気とは言えない笑みを向けていた。

「ほら光ちゃん見て!アライグマが何か洗ってるよ」
「え?うん、そうだねえ」

光と腕を組んだまま檻の中を指さす京子ちゃんの笑顔は、さっき俺に向けていた笑顔とは比べものにならない。
それを見てなんとも言えないため息を吐いてから、俺もアライグマに目をやった。
何を洗ってんだろう。あのもじゃもじゃは…どこかで見たことあるよ、うな。って。あ、あれ、ランボ!?

「あれっツナ、あれ……」
「光!サルのショー見に行こう今すぐ!迅速に!」
「迅速って言葉をツナから聞くとは思わなかった」
「とにかく早く!!」

光の手を引っ張って、サルのいる檻の方に向かう。
今ここでランボのお守りなんかしたら、ただでさえ微妙な状況なのにもっとひどくなる!

「でもツナ、サルのショーは2時からだよ」
「あ」
「よくあることだよ、ツナ君」
「……ですよねー」

にっこり微笑む京子ちゃんに、思わず遠い目をしてしまう。並中のマドンナと呼ばれる彼女の隠れた一面を知ってしまった気持ちだ。気持ちっていうか事実なんだけど。
なんだろうこの、なんか泣きたくなる感じ。

「ツナ、京子ちゃん、じゃあラッコを見に行こう」
「う、うん!」

今度は光が俺と京子ちゃんの手を引っ張って、ふわりと微笑んだ。
ほっと落ち着いた気持ちになって、俺も頬を緩めながら光の隣を歩く。

でもやっぱり目が合った京子ちゃんは、控えめに、でも力強く(光ちゃんと二人きりにして欲しいんだけどなあ)と物語っていた。
それは俺のセリフなんだけど。


――…


ツナと京子ちゃんの天使コンビと一緒に、一通り園内を回ってから、確信する。
ランボに始まって、了平、ビアンキ、またランボ、獄寺、また了平、またビアンキ……って、この動物園にはボンゴレ関係者が集まりすぎだ。

最初、リボーンに動物園に行くよう言われた時から、察するべきだった。今日のこれは、原作の話だ。
ツナと京子ちゃんのせっかくの初デートを邪魔してしまって、とてつもない罪悪感と申し訳なさに涙が出そうになる。
だって二人ともなんかピリピリしてるし……ごめんね間に私なんかが入っちゃって!二人でデートしたかったよね!ごめんね!

でも、なんだかんだ京子ちゃんもツナのこと気になってんだなあなんて微笑ましく思う。
中学生の恋愛ってなんでこんなに可愛いんだろうね。
山本然りツナ然り。恋する男の子の可愛さと言ったら!勿論女の子もね!


みんなを見つける度に走り回るツナに手を引かれ、私と京子ちゃんは動物園の中を走り回ることになる。
走るのは得意じゃないんだけど、確かにこんな速さで動物園を回るのは初めての経験で。面白い、かもしれない。
ツナはやっぱり楽しい子だなって、笑みがもれた。

「ご……ごめん、二人とも、無理矢理引っ張ったりして」

やっと立ち止まったツナが、肩を上下させながら荒い息を吐いた。
そりゃツナも運動得意なタイプじゃないし、これだけ走って疲れないわけないよね。私も含めて三人とも、疲れで頬を上気させている。
京子ちゃんはにこりと笑って、深呼吸をしてから口を開いた。

「んーん、すごく楽しかったよ!光ちゃんと一緒だったしっ」
「あ、うん!私も楽しかったから気にしないで?ツナ。やっぱりツナといると楽しいよ!もちろん、京子ちゃんとも!」

ね?と笑って、膝に手をついているツナに手を差し出す。へらりと疲れたような笑みを浮かべて、ツナは私の手を取った。
じゃあそろそろ帰ろうかって私が口にしようとした、そのとき。
動物園内に放送の声が響いて、それと同時に、ガルルル……と嫌な鳴き声が耳に届いた。

「……ちょ、」
「なっ!?」

目前に、ライオン。

獄寺のダイナマイトのせいで半壊になった檻から抜け出した、三頭のライオンがすぐそこまで迫っていた。
のしのしと百獣の王たる威厳を漂わせながら、ゆっくりこっちに近付いてくる。
不意に視界に入ったリボーンはすぴぴーと眠っていて、無意識に京子ちゃんとツナの手を引っ張った。
その瞬間、私たちにライオンが襲いかかってきた。

「きゃああっ」
「京子ちゃっ……!」
「光!!」

咄嗟に京子ちゃんを抱き締めて、ライオンに背を向けた。ツナの手も、引っ張ったはずだった。
なのにツナは、私とライオンの間に立ちはだかって、真っ直ぐライオンを睨みつける。大きく吠えていたライオンは、その姿に一瞬ひるんだ。

その隙を見逃さず、どこかから現れた了平がライオンを殴り飛ばす。
残りのライオンも獄寺とビアンキの手によって気絶させられ、辺りは静寂に包まれた。


「……ツナ、」

みんなに本当のことを知らされて落胆しているツナに、そっと歩み寄る。
少し遠くでは、京子ちゃんが腰に手を当てて了平に説教をしていた。獄寺は相変わらず倒れたままで、リボーンや山本たちはにこにこ笑いながら談笑している。
その内、動物園の人たちが来たら私たちは怒られるだろう。
とりあえず、こんなところでダイナマイトをぶっ放した獄寺は怒られて然るべきだ。

「光……なんというか、ごめん」
「ツナが謝ることじゃないよー」
「でも、危なかったし……」

しょんぼりしているツナの、ふわふわした髪の毛をくしゃりと掴んで、撫でる。
私の行動にびっくりしたらしいツナは、ぱっと顔を上げて私と目を合わせた。

「ツナは私と京子ちゃんを守ってくれたでしょ?あのときのツナ、格好良かった」
「……え、」
「ありがとう、ツナ」

次は、私が盾になるから。
そっと心の中で呟いて、ツナの頭から手を離す。

守ってくれて嬉しかった。私の名前を呼ばれたことが嬉しかった。
それだけのことで、こんなにも胸が温かい。

「ありがとう」
「えっあ、い、いやっ!……光に何も無くて、良かったよ」
「ん、ツナもね」

やっと笑ってくれたツナが、私の手を握る。
どこかすっきりした、綺麗な笑顔を浮かべて。


(ああ、俺が好きなのは、光なんだ)

 
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