さて問題です。雲雀さんは校内のどこにいるでしょう。
答え、わかりません。
「えっ雲雀さんまじでどこ……」
数週間かけて描き上げた並中の絵。
スケッチブックに広がるのは、当初の予定通り桜の木に雲ひとつない青空をバックにした並盛中学校の校舎だ。
納得がいくまで何回も描き直して、とりあえず漸くの納得がいった絵を今日、学校に持ってきたんだけど。
肝心の雲雀さんがどこにいるのかわからない。
応接室かと思って行ってみたら、なんと誰もいないのだ。
日常的に人が使っている様子も見えなかったし、もしかしたらまだ風紀委員会は正式に応接室を使用していないのかもしれない。なんてこった。
他に雲雀さんがいそうなとこなんて想像つかないし、どうしようもない。授業中の屋上とかいそうだけど、さすがに堂々と授業サボって彼の前に出て行く勇気はないし。それは勇気じゃなくて無謀と言うよ。
授業中も雲雀さんがどこにいるのかをただ考えていて、内容なんて右耳から左耳だ。
だいたい今更中1の授業を受ける気がしない。
ううん……また放課後、屋上に行ったら会えるかな。
――…
思い立ったが吉日?みたいな気分で、放課後、屋上に向かってみる。
屋上から見上げた、うっすらと赤く染まる空をデジカメでぱしゃりと撮った、直後。
「へえ、写真も撮るんだ」
「うわあっ」
あ、会えたよ……。
背後から突然声かけてくるのは止めて欲しいです、なんて言えないけど。
雲雀さんは私のデジカメに目をやって、すぐに私へと目線を移した。
「でもそれの持ち込みは校則違反だ」
「す、すみません」
「……まあ君は特別に許可してあげるよ。新聞部にも許可は出しているしね」
なんだなんだ雲雀さん優しいな!?
驚き混じりにお礼を口にすれば、ん、と手を差し出される。なんぞやと疑問符を浮かべると、ため息を吐かれた。
あれっ、なんか馬鹿にされてる気がするぞ。
「絵、出来たんじゃないの?」
「ああ!そうですそうです」
カバンを漁って、スケッチブックを取り出す。
そこから慎重に1枚をちぎって、裏返しの状態で雲雀さんに手渡した。
「あの、所詮素人の趣味の範囲内なんで…あまり期待はしないでください……」
「うん、ずぶの素人だね」
そこまで言わなくても。
気持ち涙目な私に、雲雀さんは私が描いた並中の絵を空に透かすようにして見ながら、でも、と言葉を紡いだ。
「僕は好きだよ、君の絵」
「、」
……口あんぐり。
そんなまさか、雲雀さんがこんなに優しい笑顔を浮かべてこんなことを言うだなんて、誰が思うのか。いや、誰も思わないだろう。私だって思いもしなかったんだから。
ぱくぱくと口を金魚みたいにしていたら、雲雀さんはそんな私を見て馬鹿にするように小さく笑う。
それがまた無駄に綺麗で、なんだか悔しい。
「……あの、」
「何?」
「今度、雲雀さんの写真、撮っていいですか」
思わず口から零れ出た言葉に、自分でびっくりする。雲雀さんも目を丸くしてるけど、でも私の方がびっくりだ。
何言ってんの自分!駄目に決まってますよねすんません!
でも雲雀さんは緩く口角を上げ、そっと呟く。
「光の好きにしたらいいよ」
その笑顔の色気といったら!
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