うっかり……そう、うっかり、某レンタルショップで借りた続き物のDVDを、お風呂上がりに見始めてしまった。約二時間×三本で、計約六時間。
それでもまだ二本残ってるから、家帰ったら見なきゃ……じゃなくて。

案の定徹夜をしてしまったのに、今日に限って小テストのある日で学校に行かなきゃいけないんですよこれが。最悪すぎる。
それでもやらなきゃいけない弁当と朝ご飯の用意をするかと、ふらふらしながら作ってたら携帯に着信。
こんな時間になんぞと思って見たら、雲雀さんから「今日、僕の弁当作ってきてね」って……私は弁当屋さんじゃないんですけど……みたいな。
もちろん作らせて頂きますけども……。

そんなわけで、眠い目をこすって弁当を三つ作って、朝ご飯をいつも通り獄寺と食べて、学校行って。

現在、お弁当タイムです。
……雲雀さんと!

「雲雀さんが私を昼休みに呼ぶなんて珍しい」
「なに、呼ばれたくなかった?」
「そんなまさか滅相もないのでトンファーしまってください」

顔が怖いよ雲雀さん。

雲雀さんは私が持ってきた弁当をつつきながら、もごもごと小さい声で何かを呟く。
聞き取りにくかったけど、なんとか聞こえたその言葉に、私の口角は意識せずにあがった。

「光、最近ずっと草食動物達と居て、ここに来なかったでしょ」
「……まあ、比較的?」

なんだ雲雀さんかわいいなあ。
でも結局あれでしょ?パシリがいなくてやだったんでしょ?だって弁当の隣に山のような書類が溜まってるもの。
草壁さんとか他の風紀委員の人って書類整理出来ないのかな。草壁さんとか普通に出来そうなのに。未来編とか絶対ばりばりやってるよ、もしかしてまだそこまで成長してないのか……?

そんなことを考えながら、卵焼きを口の中に放る。
応接室に来るときにペンケースを持ってきて正解だった。三限後の休憩時間にメールをもらってからの私の判断は間違っていなかった。

卵焼きをごくんと飲み込んだ、そのとき。ふわあと大きなあくびが出て、そういえば私徹夜明けだったなと改めて意識する。
授業中も今日はかなり当てられたし、あんまり眠れてないんだよね……。本来学校って寝る場所では無いんだけどね……。

「またDVDでも見たの?」
「雲雀さんってエスパーでしたっけ」
「A組の前を通った時に君と駄犬が話してるのが聞こえたんだよ」
「駄犬て……」

獄寺のことですか……。
本人が聞いたら烈火のごとく起こりそうだな。

「……眠いなら、寝ていいよ。教師には僕から話しておくから」

ハンバーグを口に運びながらの雲雀さんの言葉に、ぱっと顔を上げる。
思わずきらきらした眼差しを向けてしまった私を見て小さく吹き出した雲雀さんが、なんだか神様的な存在に見えた。神々しい光が見える気がする。

「いやむしろ雲雀さんに会ってから初めて雲雀さんが天使に見えた気がする!」
「なにそれ」
「いえ何でも!」

是非、寝させてください!
眩い笑顔を浮かべれば、雲雀さんは呆れ気味に苦笑してから立ち上がり、私の座っているソファーに学ランを落とした。
疑問符を浮かべる私に、今日は寒いからね、とだけ口にする。……あ、もしかして、かけろってことですか?えっ……わあ、うわっ!どうしよう雲雀さんが優しい!

やっぱり今日の雲雀さんは天使なのかもしれない。どうしよう明日は悪魔になってたら!いや周りにしてみれば日頃が悪魔みたいなもんなんだろうけど!

「……何か失礼なこと考えてない?」
「そっ、そんなまさかあ」
「声裏返ったけど」

いつぞやかのツナの時と言い私の口は正直者だな……。

食べ終えた弁当をしまって、上履きを脱いでソファーに横になる。
肩には、雲雀さんの学ランをかけて。

「起きたら書類、手伝ってよ」
「もちろんです。じゃあちょっと、眠らせてもらいますー…」
「六限が終わっても起きなかったら起こすからね」
「はあい」

ツナたちとはまた違う安心感があるからか。
雲雀さんの声を聞きながら、私の意識はゆっくりと夢の中に落ちていった。


――…


あっという間に眠ってしまった光をちらりと眺める。
一瞬あたたかくなった気持ちに疑問を感じながらも、すぐにその目線は手元の書類に戻った。

最初は、ただの草食動物たちとなんら変わらない、戦う術なんてなにも知らない女だと思っていた。……後半は今でも思っているけれど。
でも、彼女の……光の描く絵に、強く惹かれた。まだ荒削りだけど、心臓を射抜かれたかのような衝撃と高揚感を、光の絵に感じた。
それは、鬱陶しい群れを咬み殺した時にも勝る感情で。

僕をそんな気持ちにさせるこの絵に。この絵を描く、光に。
興味を持った。

「……無防備に、ぐっすり眠って」

緊張感のかけらもない子だ。
光……君は、何なんだろうね。僕にはまだ、わからない。

書類に走らせていたペンを置いて、制服のポケットに入れていた携帯を取り出す。
半ば無意識に、眠っている光の寝顔に向けて、携帯のカメラを起動させていた。どこか抜けたようなシャッター音が鳴っても、光は起きる気配がない。
無防備にも程がある。呆れながら、撮った写真をファイルに保存する。

「何、してんだか」

すぐに携帯を元あった場所にしまって、作業に戻る。
微かに熱を持つ心臓と頬に顔を顰めて、光から目を逸らし、応接室の窓に目を向けた。

僕と光だけの静かな世界には、紙の上をペンが走る音と、眠る光の寝息だけが響いていた。



「……光。六限、終わったよ」
「ぅえ……あい」
「寝ぼけてんの?」
「んー、大丈夫、です」

チャイムが鳴り終えた後に光を起こせば、ゆるゆると目を覚ました光は小さくあくびを漏らす。まだ眠そうだ。
けれど不意に携帯を取り出して、数秒操作した後、頬を軽く叩く。そして僕の上着を手にし、立ち上がった。

「じゃあ一旦教室戻りますね。終礼が終わったらすぐ来ます」

上着を僕に返してから、光は弁当箱の入った袋とペンケースを持って応接室の扉を開けた。
廊下へと一歩踏み出したところで、光と、小さな声で呼んでみる。
気付かなければそれでいい。気付いて、振り返ったら。

「、何ですか?雲雀さん」

君に、言いたいことがあるんだ。
きっと君は僕の言葉に、困ったように笑うんだろうけど。

「他の奴らと、群れないでよ」
「……、」

ほら、ね。
やっぱり光は、困ったような笑みを浮かべると、ぺこりと一礼して応接室の扉を閉めた。
だろうと思ったけど、なんだか、光が僕よりあいつらを取ったようで……むかつく。その理由がわからないから、どうすればいいのかもわからない。
まったく……君は厄介な子だよ。光。

 
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