光は本屋で五冊の文庫本と二冊のマンガ、そしてジャンプの計8冊を買っていた。
やっぱり持っていた文庫本は俺じゃわかんないようなタイトルと内容のモノで、なんだか少し笑える。
俺もジャンプとマンガを一冊買って、二人で本屋の袋をぶら下げて店を出た。
こっちだよ、と光は本屋を出て右手を指し、俺のあいている方の手を取って歩き出した。
自然すぎるその動作に一瞬、ぽかんと光の後ろ姿を見つめる。
どこか楽しそうな光の姿はなんだか妹とか姉ちゃんみたいで、俺は光の手をしっかりと握りなおした。

「、」
「どした?」
「ううん、山本の手っておっきいなーって思っただけ」

俺の方を振り返ってへらりと笑ったあと、光はまた前を向いた。
きゅっと、俺の手を握って。そんな些細なことも嬉しく思えて、少し駆けて光の隣に並ぶ。

そのとき横をすれ違った、手を繋いだ男女の二人組を見て、恋人同士なのかなとなんとなく考える。ふと視界に入ったのは繋がっている俺と光の手で、周りの人には俺らもそう見えてんのかなって思ったら、少し照れくささかった。けど、そうだといいな、とも思った。
うん、妹や姉ちゃんより、それが良い。



木でできた白い綺麗なドアを開けて、光の言う「紅茶の美味しい喫茶店」に入る。
中も綺麗で、ドアについていた鐘の音を聞いて店の奥から女の人が出てきた。

「いらっしゃいませ。……あ、光ちゃん。今日は一人じゃないのね、初めてかな?」

二十代くらい……か?若いのに大人っぽくも見えるその人の言葉に、どきんと心臓が跳ねる。
きっと光はここの常連で、でも、一人じゃないのが初めてってことは、ここに連れて来たのは俺が初めてってことだ。
獄寺とか雲雀とか、普通に笹川や黒川とだって来てそうなのに。
……俺が、初めて。

「イケメンだね。もしかして、光ちゃんの彼氏?名前は?」
「違いますよ里花さん!山本武くん、クラスの友達です」
「ちわっす」
「わあ、爽やか」

綺麗に笑うその人は、元からフレンドリーな性格らしい。「同年代だったら狙ってたなあ」と冗談めかしながら案内され、光と向かい合う形になってテーブルについた。
俺たち以外に客はいないみたいで、ぐるりと店内を見渡したあとに光と目が合う。俺の考えてることがわかったのか、光はくすりと小さく笑った。

「この店、看板出てなかったでしょ?場所もちょっと商店街からはずれてるし、隠れ家的な感じなんだよね。でも時間によっては満席のときもあるよ」
「へえ……確かに看板出てなかったな」

外から見て、普通の家とまではいかないけど、喫茶店ぽくも見えない感じだったのはわかった。
そんな店に光がどんなきっかけで来るようになったのかも気になるけど、それはまた今度訊くことにしよう。

「あ、山本。甘いもの大丈夫だっけ?」
「うん?好きだぜっ」
「良かった。この店ね、一応日替わりなんだけどメニューひとつしか無いんだ」

光が説明をしようとしたところで、ふと俺たちの机に影がかかった。

「それが、今日のケーキと紅茶のセットなの。はい、どうぞ」

女の人――里花さん、の持つトレーには、紅茶のカップと小さめのポットが2つに、普通のより一回り小さなケーキの乗った皿が2つ、乗せられていた。
トン、と目の前に置かれたケーキにはこぼれそうなくらいの果物が乗っていて、甘い匂いがふわふわしている。
目の前でわかりやすく目を輝かせる光を見て、笑いが洩れた。

ポットからカップに注がれる紅茶も良い匂いで、こういうものの善し悪しなんて俺にはわかんないけど、それでも光が美味しいって言うからにはやっぱり美味しいんだろう。期待が膨らむ。

「ごゆっくりどうぞ。今日は邪魔者もいないし」
「ありがとうございます、里花さん」
「あざっす」

ひらりと手を振って店の奥に消えてった、里花さん。ファイト、と声に出さずに向けられた言葉は、俺にだろうか。

周りには誰も……光以外誰もいなくて、柄にもなく緊張する。
紅茶にミルクと、角砂糖をひとつ入れてスプーンで混ぜながら、光が不意に俺の方に目線をあげた。
どきんとまた心臓が跳ねて、それを隠すように俺も砂糖とミルクを紅茶に入れる。

「ここなら静かだし、私以外いないからゆっくり考え事出来るよ。紅茶もケーキも美味しいしね」

飲んでみて、と言われて、熱い紅茶を数回吹いてから口を付ける。
一口飲んだそれは、確かに今まで飲んだことのあるどの紅茶よりも美味しく感じた。
うまい!と思わず声を上げてしまった俺を満足そうに見て、光もこくんと小さく喉を鳴らして紅茶を飲む。

ケーキを食べて、紅茶を飲みながら。
考え事、といっても何から考えればいいのかもよくわかんなくて、俺はぼんやりと光のいる店内の景色を眺めた。


光といるのが、楽しくて。この雰囲気が落ち着くから好きで。
ずっと前……初めて光と話した時よりずっと前から、光の姿を見つけたときから、話してみたいなって思ってた。
きっと優しくて面白い子だって何の根拠もなしに思ってて、その予想通りに光はすげえいい奴だった。勉強教えるのも上手いし。
そんで仲良くなって、バッティングセンターにもよく行くようになって……。
そういや光って意外とバッティング上手なんだよな。当たる回数はまだ少ないけど、その当たったボールはいつもきれいに飛んでいく。
それを知ってるのは、俺だけ……か。
なんかそれ、すっげー嬉しいかも。

でも、獄寺はそれよりもっとずっと光と一緒にいて、毎日二人でご飯食べてて、弁当も同じだった。
それが何でか悔しくて、めちゃくちゃ嫌で、でもすっげえ獄寺が羨ましく思えた。
……その理由が、わからない。
二人が偶然同じアパートに住んでたから、自炊の出来ない獄寺に料理を作ってあげるってのは優しい光なら想像できることだし、それが仲良い同士なら普通だとも思う。もし俺が普通に料理とか出来て、隣に自炊の出来ない友だちが住んでたら、きっと同じようにする。
なのに、何でこんなに悔しいんだろう。

外を眺めていた光と、俺の視線がぱちりと合った。
光はすぐに、ふわりと笑う。

「光、」
「なに?」
「例えばの話、なんだけどさ」

光に訊けば、その理由がわかるかな、なんて。

「ある女の子といると、ほわーってあったかくなったり嬉しくなったりして、でも、その子が他の奴と一緒にいると、なんか悔しくて、でも羨ましくも感じるのの、理由って……何だと思う?」

俺の言葉にきょとんと目を丸くした光は、少し赤く染まったほっぺをぽりぽりと掻いて、えーっとね、と口を開いた。

「人によるかもしれないけど……私だったらそれは、その子が好きだからなんだと、思う」
「……好き?」
「うん。友達とか家族とかの好きじゃなくて、その子の彼氏になりたいなーとか結婚したいなーとかの、好き。……じゃないかな。私にもよくわかんないけどね」

光の静かな声で紡がれた言葉は、すうっと俺の中に広がっていった。
なるほどなあ、と心の中で頷く。俺ってほんとバカなのな、何でわかんなかったんだろう。

「ん……そういう事なのな」
「考え事って、それ?」
「ああ、でも全部解けたぜ!」
「そっか。良かった」

まさか、本人に言われてようやく、好きだってことに気付くなんてなあ。なんかちょっと、恥ずかしいのな。
……ああ、そうだ。まだ、好きだって、この感情は伝えられないけど。光に言わなきゃいけないことが、ひとつある。

「……光」

名前を呼んで、首を傾げる光の髪をとかすように頭を撫でて、俺は浮かべられる限り最高の笑顔を、光に向けた。

「ありがとなっ!」
「……うん、どういたしまして!」

 
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