土曜日の部活帰り。本屋へ寄るために、商店街への道をエナメルバックを提げて歩いていた。

『部活帰りに寄り道なんていい度胸だね、山本武』
「!?」

商店街のアーチを通り抜けたそのとき。背後から聞こえてきた雲雀の声に、びっくりして後ろを振り返る。……と、そこにはにんまりとしてやったり顔で笑う、光の姿があった。
そういえば、光は雲雀の声真似が上手だったっけか。

「光!びっくりしたのな」
「あははっごめん。山本の姿が見えたから、ついね。部活お疲れ様」
「ん、さんきゅ!」

なんとなく並んで歩きながら、商店街を歩いていく。
光の手には買ったばかりの服が入ってるらしいでかい紙袋とカバンが提げられてて、訊いてみれば久しぶりに一人でのんびりショッピングをしていたんだと微笑んだ。
その笑顔に胸がほんわかするようになったのは、いつからだったかな。

「山本はどこに行くの?」
「本屋にちょっと、な」
「あ、私も。今週、ジャンプ土曜発売なんだよねー」
「光もジャンプ読むのか?」
「読むよー、山本も?」
「ちゃんと毎週読んでるのな!」

光には小説とか、難しそうな……俺なんかじゃわかんないような本を読んでそうなイメージがあったから(いや実際に読んではいるんだろうけど)、ジャンプの話を楽しそうにする光の姿は新鮮だった。
どのマンガが好きだとか、ジャンプ以外の話をしたり、おすすめの漫画を教えてもらったりしながら、ゆっくり本屋への道を歩いていく。

光といる時間は、好きだ。

なんか、すげえ安心するし楽しいし……落ち着く、っつーか……うまく言えねーけど。
いつもにこにこ笑ってて、泣いてるところなんて想像出来ないような、そんな光のお日様みたいな笑顔をずっと見てたいと思う。

「……?山本、本屋ついたよ?」
「え?あっわり、ぼーっとしてた」

本屋の自動ドアの向こうでキョトンとこっちを見ている光に駆け寄れば、ふ、と目を細めて光は微笑んだ。

「っ、」

ぎゅう、って。
優しすぎるその表情に、心臓が締め付けられたみたいな気がした。
何だ、今の?首を傾げてみてもよくわからなくて、またそんな俺を見て光は笑う。「今日はなんか、変だね」と呟いた声に、くらりとした。

「なあ……光」
「うん?」
「んー……なんて言やあいいのかな」
「?どしたの」

自動ドアから、三歩くらい離れた場所で。
お互いにはてなマークを浮かべながら見つめ合ったまま、たくさんの時間が経った気がした。
心臓がどきどきうるさい理由は、まだ、見つからない。

何も言えない俺を見上げていた光は、一瞬ちらりと店内の時計に目をやると、俺と光の間にあった隙間を、一歩埋めた。

「何か考え事あるなら、お茶でも飲みながらゆっくり考えるといいんじゃないかな?近くに美味しい紅茶を出してくれる喫茶店があるんだけど、本買ってから一緒に行かない?」
「え?あ、でも俺お金……」
「私が付き合って欲しいんだ。だから今日くらい奢るよ、いつもバッティングセンターで野球について教えてくれるお礼」

ね?と微笑まれてしまったら、首を横には振れなかった。それに、本屋を出たらすぐはいさよならなんてことも嫌だったから、光が誘ってくれたことはすごく……何でだ?……すっごく、嬉しい。
無意識に光の頭に手を置いてくしゃりと撫でれば、光も背伸びをして俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
それはとても、温かい手だった。

 
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