バレンタイン。
ピンクピンクした街に、そわそわどきどき楽しそうな男女を見て、どことなく微笑ましさを感じる今日この頃。まあそれも今日で終わりなんだけど。
でも、バレンタインが終わったら売れ残ったチョコが安くなったりするんだよね。それを狙ってチョコ系のお菓子を作ったりするのも楽しみのひとつかなあ。

とにもかくにも、並中だって例に漏れずワクドキ感溢れる雰囲気になってるわけで。
放課後になったと同時に、渡す相手の元に駆けていく女の子たちが目立った。まあ、なんというか……学校中の女子来てんじゃね?ってくらい、うちのクラスには人が集まってるんですけど……。
もちろん、山本と獄寺の二人目当てで。

笑顔で「サンキュー」とお礼を言って全部受け取る山本とは正反対に、獄寺はまったく女子からのチョコを受け取っていない。可哀相に……と思うけど、いやでも堪えてないわ周りの女子。「それでこそ獄寺君!」みたいな目になってるわ。強い……!確信。

私も京子ちゃんと花にチョコをもらって、そして私も二人に昨日作ったブラウニーとマカロンの入った箱を渡した。
喜んでくれた二人の可愛さに私はノックアウトです。


やることも無くなり、ユニット山獄のモテ具合を再確認しつつ軽く笑いながらぼーっとしていれば、山本周辺にいた女子の一人が不意に私の側にやってきた。
何だろうと思って見上げれば、どこかで見たことのあるような子。
誰だったかな、と記憶を探る。えーっと……。

「五十嵐さん、これこの前のお礼に。はい、どうぞ」

あっ思い出した、B組の川島さんだ。この前、応接室に書類持ってくの代わってあげたんだっけ。
手渡されたのは水色の小さな紙袋で、少しびっくりしながらもそれを受け取る。

「お礼なんていいのに……でも、ありがとう」
「ううん!私がしたかっただけだから。じゃあね」
「うん、ありがと」

ほんとに大したことしてないのに、いい子だなあ。
手を振って川島さんを見送っていたら、ぽんぽんと後ろから軽く肩を叩かれた。振り向けば、学級委員長の三宅さんがカップチョコの入った袋を片手に立っている。

「五十嵐さんにも、どーぞ」
「え?あ、ありがとう」

びっくりしつつ、受け取る。三宅さんは笑顔で手を振って去っていった。きょとんとしか出来ない。委員長、クラスのみんなに配ってたのだろうか。

その後も何人もの女子が、何かのお礼だったり特に理由もなかったりで「五十嵐さんコレあげるー」「光ちゃんこれもらってー」「はいっ五十嵐さん!」「これ五十嵐さんに!」ってな感じでどんどんチョコを渡してくれて、いつの間にやら私の机の上にはちょっとした山が出来てしまっていた。
隣のクラスの子や先輩からも頂いてしまったので……これは、お返しが大変だぞ……!?ってか、何で私なんかにこんなに?一体並中の女子に何が起きたんだろう。謎。

「え、うわっ!どうしたの光、そんなにチョコ……」
「いやー……」
「知らないの?沢田くん。五十嵐さんって困ってるときにさらっと王子様みたいに助けてくれたりするから、結構女子に人気なんだよ」
「「なにそれ!?」」

退屈そうに近寄ってきたツナが机の上のチョコタワーを見て口にした驚きに、たまたま横を通ったクラスの子がさらっと爆弾発言を落とした。
え……王子様って何。なんか恥ずかしいんですけど……。
うっかりアホ面を晒してしまっている私とツナなんて気にせずに、その子も私にチョコをくれてから帰ってしまった。
そこでようやく女子軍団からチョコを貰い終えたらしい山本と、逃げ切ったらしい獄寺が、ツナと私のところにやってくる。
そして案の定私の机の上を見て、山本はぽかんと口を開け、獄寺は眉を顰めた。

「すっげーのな、光!」
「何で女子のおまえがンなに貰ってんだよ……」
「……うん、私もそれ訊きたい」

まあでかい紙袋3つ抱えてる山本には負けるけどね?
ほんとに、ここまでモテてるといっそギャグだとしか思えない。この世界って元はと言えばギャグ漫画だったけど。どうやって処理するんだろう。
獄寺に至ってはもう直接渡してもダメだからって理由からか、カバンにめちゃくちゃチョコ詰められてるし。女子の行動力すげえ。

「あ、そうだ。山本、そんだけチョコ貰ってたらいらないかもだけどどうぞー。ツナも」
「いやいやいる!いるのな!」
「わあ、あ……ありがとう光!」

あわあわと慌てながら紙袋を床に置いて、チェック模様の箱を受け取る山本。
ツナも、笑顔で受け取ってくれて一安心だ。京子ちゃんからももらえるといいね!って、もらえるんだっけ?ここら辺の話の記憶曖昧だわ……。
山本はその場で箱の包装を解くと、中に入ってるブラウニーを口に放り込んだ。

「うんっうめえ!この前のご飯も美味しかったし、光は良いお嫁さんになるのなー」
「あはは、だといいんだけどねえ。ありがと!」

とりあえず君が天使だってことは分かった!
ブラウニーを頬張る山本の可愛さと言ったら……思わず笑顔になるわ……。


――…


その後はリボーンが出てきて、リボーンにもチョコを渡した。
多分、そこから原作に入ったんだろう。
少し経って死ぬ気モードで教室を出て行ったツナに、なんとなーく話の流れを思い出す。あれだよね、確かツナん家で京子ちゃんとハルがチョコ作ってたんだよね。

ツナのカバンはリボーンが持って帰ったから、残された私たちも帰ることにする。
山本は部活だから、まさかの獄寺と二人きり。そういえば二人だけで帰るのって初めてな気がする。

「……よね?」
「何がだよ」
「いや、二人で帰るの」

ツナとは帰ったことあるけど、獄寺は無いはず。朝、ツナん家まで一緒に行くのはしょっちゅうだけど。
私の言葉に一瞬固まって、「そうだな」と獄寺は頷く。

なあんか獄寺、今日は無愛想だな。いやいつも愛想があるわけじゃないけど。
女子に追われて疲れてんのだろうか、荷物もいっぱいだし。私もいっぱいだけど。あってかこれ全部食べたら絶対太る!どうしよう!


悶々と悩みながら家に帰りついても獄寺は無愛想なまんまで、さすがにそこまで無愛想というか不機嫌だと不思議に思う。
むっつり眉を寄せたまま、口をへの字にして晩ご飯の鍋をつつく獄寺を見て、私は白菜を飲み込んでから口を開いた。

「ねえ、何かあった?」
「あ゙?」
「眉間。ずっと皺寄ってるよ」

自分の眉間を指さして首を傾げれば、獄寺は数秒の間の後、箸を置いて小さくため息をついた。何のため息ですかそれ。
何かを言おうとしてる獄寺に、私も箸を置いて言葉を待つ。
一分経って、三分経って、五分経っても獄寺が喋る気配はない。その代わりに、どんどん獄寺の顔は真っ赤に染まっていった。なんかよくわからんけど獄寺かわいいな。
もしかして暖房と鍋のせいで熱いのかな?と考え始めた頃に、やっと獄寺の口から声が出た。ゆっくり、重苦しそうに、口を開く。

「なっんで、野球馬鹿や十代目にはチョコ渡して……たのに、俺には無えんだ、よ」
「……ああ、そのこと」

なんだ、もっと重大なことかと思って身構えちゃったじゃん。

菜箸を持って鍋に肉を入れながらそう言えば、獄寺はマジ顔でこっちを睨んできた。若干涙目に見えるそれは強がってる子犬みたいでめちゃくちゃ可愛い。撫でくりまわしたい。
しかし今にも噛みついてきそうな目はやっぱり慣れても怖いので、私は慌てて言葉を付け足した。

「ごめん、ごめんて。だって、獄寺は家で会うから学校で渡すこともないでしょ?」

というか、学校で渡して獄寺が受け取ってくれたとしたら。そしてそれを万が一獄寺ファンクラブに見られたとしたら……後が怖い。
ただでさえ今絶対目ぇ付けられてそうなのに!
私と彼はただの友人ですーなんて言っても聞いてくれそうにないじゃん……恋は盲目だもの……。恋とお金は人を変えるんだよ……。

「……そりゃ、そうだけど」
「つーか貰ってくれるんだ?あんなにあるのに」
「ったりめえだろ!」

勢いでいきなり叫んだ獄寺に、びくりと肩を震わす。え、いや、貰ってくれるのは嬉しいけど、そんなに?
目を丸くする私に気付いたのか、耳まで顔を赤くした獄寺は、ごにょごにょとちっちゃい声で呟いた。

「光の作ったモンは……う、美味いから、な。それだけだ!」
「おお……」
「何だよその反応」
「いや……うん、とりあえずありがとう」

久々に獄寺のデレを見たなあ、と。
この前はいつになく素直だなあって思ってたけど、それ以降はまたツンしかなくてつまんなかったんだよね。
やっぱツンデレはデレがないと!意味がないっていうか!

「食べ終わったら持ってくるよ、キッチンに置いてるから。ついでにデザートもチョコ系だから。一応甘さ控えめにしたんだけど、食べるよね?」
「食べるけどよ……当分チョコ三昧だな」

うげえ、と先を想像したのだろう。獄寺は顔を顰める。

「女の子たちの気持ちに対してうげえとか言うなよ……」
「甘ェのは嫌いなんだよ」
「きっと空気読んで苦めにしてるって、多分」
「めちゃくちゃ曖昧じゃねぇか」
「いやだって勘だし」

まあ二人でがんばって、チョコ祭といこうじゃありませんか。
そう言って笑えば、獄寺も仕方なさそうに肩を竦めた。

 
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