1日が無事に終わって、私は屋上でぼんやりとスケッチブックを開いていた。
学校の桜、グラウンドや校門を行き交う生徒達、屋上から見える空、ここから見える範囲の校舎。目につくものを全てスケッチしていく。

「まさか本物の並中を描けるとは思わなかったなー」

今度は桜の木と雲ひとつない青空をバックにした並中の校舎を描こう。
心の中でそう決めて、描き終えたスケッチブックから視線を上げた。

「新入生は下校したはずだけど」
「……、うわあ」

そしたら、風紀委員長殿がいた。

え、いや……何で?
さっきまで誰もいなかったはずなんだけどなーおかしいなー。
そしてキャラに関わらまいと思っているのになぜ雲雀さん。なぜここで来ちゃったのかな雲雀さん。

「君、名前は」
「五十嵐……、光です」
「入学早々、屋上で何をしているの」

部活体験でもなさそうだし。
訝しげな視線を向けられるも、雲雀さんはトンファーを取り出すつもりはない、らしい。いやまあ私の今後の対応によるのかもしれないけども!

「絵を、描いてたんですが……」
「……絵?」

眉間に皺を寄せて、雲雀さんは私が持っているスケッチブックへと目線を落とす。
ふうんと頷いたかと思うと、ひょいとスケッチブックを奪い取られた。思わず唖然としたまま、反射的に奪い返そうと手を伸ばしてしまう、けど、スケッチブックに目を向けた雲雀さんの表情に、私の手は中途半端な場所で静止した。

……なんて綺麗な瞳をするんだ、この人。

「これは……君が描いたの?」
「え、はい」
「そう」

いやに長い沈黙が落ちる。えええ何でそこで黙っちゃうの雲雀さん……!

ぱらぱらとスケッチブックをめくっていく雲雀さんに、私の口はぽかんと開いたままで。何とも言えない時間が、そのまま、数分か数秒か分からないけれど……経っていった。

どうやら全てのページを見終えたらしい雲雀さんは、スケッチブックを私の手の上にそっと戻してくる。その時に私へと向けられた瞳がやっぱり綺麗なもんだから、思わず目を逸らしてしまった。
こんなに綺麗な顔をした人を、現実に間近で見たことなんて無いんだ。どうすればいいのかわかんなくなる。

「五十嵐……っていったね」

立ったままの雲雀さんに見下ろされて、私はこくりと首を縦に振る。

「その絵に、色は塗るの?」
「え?ええと……気が向けば、塗ると思いますが……」
「じゃあ塗って」
「えっ、」
「この校舎をもっとちゃんと描いて、色も塗って、僕のところに持ってきて」

真面目な表情で、雲雀さんは私に告げた。
なんと言いますか……え、決定事項?拒否権とかない感じですか?というか、私の絵はただの趣味なんで……そんな人に渡すとかそういうことは出来ないレベルの物なんですけども……。

「いいよね?」
「あ、はい、わかりました」

私の返答を聞いた雲雀さんは、ほんの僅かに微笑んで、「早く帰りなよ」と私に背を向けた。

ああ、なんっであんな良い返事をしちゃったかなー!

 
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