今まで何度頭を抱えて来ただろうか。数えるのも辛いほどな気がする。なんだ私意外と可哀相だな。いや幸せなんだけども。
ともかく、今回ほど頭を抱えた日はないだろうと思う。

「5人分ってもう家族じゃん……」

馬鹿みたいに重いスーパーの袋に涙を浮かべながら、買い物についてきてくれなかった獄寺を心の中で呪った。
「恥ずいだろ!」じゃねーよこの純情ヤンキーめ。豆腐の角で頭打てばいいのに。

なんとか3つにも至ったスーパーの袋を自転車のかごに入れることに成功して、ほっと一息。
さーて後は帰るだけだーあははー…はあ……。
こんな重いチャリに乗って坂道昇るとか考えたくない。


今日は日曜日。
つまり、私の家に晩ご飯を食べにくるとリボーンが指定した日だ。
昼前にはツナからも山本からも楽しみにしてるね!的な電話をいただき、リボーンからもエスプレッソ忘れんなよとの電話があって、なんかもうこの1日で私の毛根は死滅してしまいそうである。

ちなみに件の弁当に関して言えば、山本とツナの2人はなかなか喜んでくれた。
やっぱりあれだね、自分が作ったものを「おいしい!」って食べてくれるのは嬉しいもんだよね。
だってもう獄寺とか感想言ってくれないからね。最初の3日くらいは「……うめえ」って言ってくれてたのに残念だ。
あのほんのり赤く染まったほっぺな獄寺のデレがもう見られないとは……。


なんてことを考えているうちに我が家へとついてしまった。よく頑張ったよ私。
だがしかし、正直な気持ち今はいっそ家に帰りたくなかった。このアパート爆発しねえかな。あっ大家さんが泣くからやっぱだめ。

自転車置き場に自転車を停めて、ため息をつきながら再び馬鹿みたいに重いスーパーの袋たちをかごからおろす。
それを持ってアパートの方に振り返ったら、真後ろに獄寺がいた。びっくりしすぎて一瞬呼吸が止まった。

「貸せ」
「は、」

きょとんとする間もなく、両手に提げていたスーパーの袋を獄寺に奪い取られる。
何も喋らずにアパートへと向かい階段を上りだした獄寺を、はっと我に返って追いかけた。

「なに、今日は優しいね?」
「うっせ」
「素直じゃないなー。あ、獄寺も作るの手伝う?少しは自炊出来た方がいいよ」
「やるわけねえだろ、めんどくせえ」
「ちぇっエプロン姿の獄寺は格好良かっただろうに……。あ、山本もエプロン似合いそう」
「……、」

ぶつぶつ呟きながら、自分の部屋の鍵を開ける。
荷物を持っている獄寺に先に入ってもらってから、私も玄関でブーツを脱いでキッチンの方に向かった。獄寺はキッチンにスーパーの袋を置いて、無言で外へと出て行く。
つれないなあと思いつつキッチンで袋の中身をひとまず冷蔵庫に移していたら、ぴんぽーんとインターフォンが鳴る音と共に、獄寺がこっちに戻ってきた。
てか、返事待たずに入るなら鳴らす必要なくね……?あと何しに外出てったの……?

「あ、鍵しめといてねー」
「あー…おう」

……?なんだ今、声がしおらしかったぞ。

軽く驚きながらキッチンから顔を覗かせてみる。
と、獄寺はキッチンのすぐそば……ちょうどキッチンの中からは見えない場所に立っていた。どうしようか的な感じで悩んでる風の表情を浮かべながら。

「何してんの?」

訝しげに問いかけた私の目をちらりと見て、すぐに目を逸らす。
それを2、3度繰り返しながら、ぽりぽりと頬を掻いたり喋るタイミングを伺ってんのか口の開閉を繰り返したり。その顔は案の定というか、赤い。
何を言おうとしてんのかは分かんないけど、ほんっとこの子純情だよねえ……見てて微笑ましく感じるわ。

特に急かす必要もないしとぼんやりと獄寺を見上げていれば、っごほん!と咳払いをひとつしてから獄寺は眉を寄せて口を開いた。

「……て、やる」
「?ごめん、聞き取れなかった」
「っだから!」
「えっはい」
「手伝ってやるっつってんだよ!」
「……は、」

口あんぐり。
……いや、手伝ってくれるのはありがたいんですけど…何をきっかけに?ほんの5分か10分前まではめんどくさいって言ってたのに。
目を丸くして獄寺を見上げたまんま固まってたら、獄寺は小さく舌打ちをした。

「手伝い、いるのかいらねえのか、どっちなんだ」
「えっ、あ、いる!」
「な、ならエプロンでも何でも早く持ってこい、よ」
「うん、ありがと獄寺。助かる」
「……ああ」

へらりというか、ふわりというか。
どこか幼げのある優しい笑みを浮かべた獄寺に、にこーっと私も笑みを返して、タンスにしまってある無地のエプロンを取りにキッチンを後にした。


――…


「っあ゙ー…ありえねぇ」

光が自分の部屋の方に消えたのを確認してから、俺は壁にもたれたままその場にくずれた。

ばかみてえに顔が熱い。
まず、何で俺はこんな行動に出たんだ。自分で自分がわからねえ。

――「あ、山本もエプロン似合いそう」

そう、だ。
光がそう言ったのが、異様にむかついて。
俺がいなかったら山本に手伝わせたのかって、そう考えたら……なんか、すげえ嫌で。

……何で、嫌なんだ?

思ってみれば、光の作った弁当を野球馬鹿と十代目が食べてんのも、嫌だった。

光の作ったモンを食べれるのは俺だけの特権だったのに。
光の作ったモンが美味ぇことを知ってんのは、俺だけだったのに。
此処に、この部屋にずっといられるのは、俺だけだった、のに。

「……何へたり込んでんの、獄寺」

俺を見下ろす、光の目を見て。
ああ、と。ほつれていた糸がほどけるみたいに、理由のつかないもやもやの意味が、わかった。

こんなに単純で、簡単で、けれど……俺にとっては遠すぎた、それだけの理由。

「何でもねえよ、光」

俺はこいつが、光が、好きなんだ。

 
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