弁当の時間は大抵1人だ。
それに特に理由はないんだけど、まあ1人で食べる方が楽だし。ってか食べながら喋るって行動が苦手なんだよねえ。
食べるときは黙々と食べるし、喋るときは普通に喋るし。
まあ京子ちゃんや花と食べる日もあれば雲雀さんと応接室で食べる日もあるんで、あれですよ、友達がいないってわけじゃ……!

「何ぶつぶつ言ってんの、光。怖いよ」
「そのセリフ3日前のツナにバットで打ち返すわ」
「覚えてないし!」

そして今の私は弁当箱片手に、ツナを筆頭とした並盛トリオと屋上へと続く階段をのぼっている。
なんでこうなったのか。その理由はまあ、単純明快。「誘われたから」だ。それ以上でも以下でもない。
断る理由もないしついてきたんだけど、男子3人女子1人って、すごい光景だよなあ。
前の世界の友人がハンカチ噛んで羨ましがってる様子が目に浮かぶ……。

「光と一緒に弁当食うの初めてだよな!」
「そうだねえ」
「十代目にご迷惑をかけんじゃねぇぞ!」
「弁当食べながらどうやって迷惑かけるの?」

噛み付いてくる獄寺をスルーしつつ、屋上の風が当たりにくく且つ日の当たる場所を選んで各々座り、弁当を開く。
私山本ツナ獄寺の順に、微妙に円になってるような形で。
ぱっぱっと弁当の包みを開いていく3人を見ながら、はたと気が付いた。

やっべ、私と獄寺、弁当の中身一緒じゃん。

何で今まで気が付かなかった私。そして頭がいいはずの獄寺もなぜ気付かない!
なんたる不覚。やだなあ絶対何か聞かれそう。
配置もメニューもまったく一緒とか絶対変だもん。

うぐぐ、と悩みながら弁当箱に手をかけたまま制止する私。
3人ともすでに食べ始めようとしていた中で、山本がそんな私の異変に気付いた。

「何で弁当開けねーんだ?光」
「え。あ、いやその」
「開けねーなら俺が開けてやんのな!えいっ」

えいって可愛いなあもう!…っじゃない!!

山本の手によってパカッと開かれた弁当箱。
中にはオムレツやミニハンバーグやサラダやご飯が詰め込まれている。オール手作りな私の自信作であることを除けば、まったくもって普通の弁当だ。

「……あれ、これって…」
「あ!獄寺君の弁当と中身一緒だ」
「だよな?」
「「……、」」

獄寺とまったく同じことも除いて、ね!

きょとん顔の2人が今は憎たらしいです。気付かなきゃ良かったのに。
獄寺と私はすんごい微妙な顔をしたまま硬直している。
……言い訳、思い浮かばねー…。

不意に山本とツナが、同時に獄寺の弁当箱からオムレツとハンバーグを取って口に突っ込んだ。
私と獄寺が唖然としている中、数回咀嚼して飲み込むと、今度は私の弁当から同じものを取ってまた口に放り込む。

「「うん、同じだ」」
「わざわざ食べなくても」

突然の行動すぎてびっくりしたわ!

「なあ、何で?何で獄寺と光の弁当同じなんだ?」
「いや、それはねえ……あの」
「ねえ何で?獄寺君」
「そ、それは……えっと」

何ではこっちのセリフなんですけど。何で山本とツナ、目が笑ってないの?!すっごい恐いよ!
思わず縮こまって身を寄せ合ってしまった私と獄寺を見下ろすようにツナと山本は立ち上がり、満面の笑顔と見せかけて全然笑ってない笑顔を顔に貼り付ける。

「ねえ、」
「なあ、」

「「何で?」」

こいつら天使ちゃう小悪魔や……!思わず住んだこともないくせに関西弁が出てくる。

若干涙目になりながら獄寺の腕をがっしり掴む。あ、獄寺も顔真っ青だ。
でも残念なことに、いつもなら笑えるが私もこっち側なので笑えない。

「見ればわかんだろ。獄寺の弁当は光が作ってるから中身が一緒なんだ」
「ちょ、ま」
「っリボーンさん!!」
「隠したってすぐにバレることだぞ」

いや別に隠すつもりは……もごもご。
どこからともなく現れた小さな死神、またの名をリボーンに事実を喋られてしまい、いつの間にそれを……と思う間もなく山本の顔が私にぐいっと近づいた。
格好良いとか可愛いとか以前に怖いですセンパイ。

「どーいうことだ?」
「話してくれるよね?光、獄寺君」
「「……ハイ」」

あ、へえ……知らなかった、ツナも山本も黒属性入ってたんだ……へえ…ふーん……。
……泣いていいかな。


結局、アパートの前で獄寺と会ったあの日から遡って獄寺のご飯係は私がやってるんだという内容を1から10まで話した。
その間笑うでもなく無表情で話を聞いているツナと山本が怖いのなんの。
だって獄寺ずっと顔面蒼白だもの。今にも倒れそうなくらいだもの。いっそ私も倒れたい。

「だから光、俺ん家に寿司食いに来るの減ったのな。そういや来るときっていっつも獄寺が学校来てなかった日だった気がする」
「ああ……確かに。ちゃんと食べてるならいいかなーって思ってたけど、そういう理由だったんだね」
「男女2人1つ屋根の下なんてふしだらだわ!」
「ちょっとリボーンは黙ろうか」

いつぞやの授業参観日思い出したじゃないか。ってかもしかしてそれ言ったのもリボーンだったの?

「ねえ光」
「はい」
「俺も、光の弁当食べてみたいなあ」
「あっ俺も!」
「は、はあ……?」

突然の申し出に疑問符を浮かべる。
え、いや、食べたいならどうぞそこにあるし……的な目線を向ければ、若干馬鹿にしたような視線で返された。あれっこんな子だったっけツナと山本って。お姉さん涙出そうだよ。

「明日。作ってきてくれるよね?」
「獄寺に作れるんだから、俺らの為にも作ってくれるよな!」

すっかり空気になっていた獄寺も、この流れには目を丸くしている。
いやいらないじゃん、君たちお父さんお手製の和食なお弁当と奈々さんお手製の素敵なお弁当があるよね?え、何で?

「代わりに母さんの弁当あげるから」
「オッケーわかった!明日作ってくるね!」
「おま……返事早すぎだろ」
「君の分もちゃんと作るから安心しなって、獄寺」
「べべべ別にそういう意味じゃねぇ!」

私の弁当なんかより奈々さんのお弁当。これ常識。
そうと決まったら明日は早起きしなきゃなー…3人分とか、多すぎる。
全国のお母さんまじ尊敬するわ。

「あとさ、今度光の家にご飯食べに行ってもいいか?」
「てっめ…いい加減にしろ野球馬鹿!」
「あ、俺も行きたい。だめかな?」
「じゅ、十代目……!?」
「いいんじゃないですか……」
「じゃあ今週の日曜でいいな。楽しみにしてるぞ」
「リボーンも来るんかい」

その時、弁当もまだ食べてないのに昼休み終了5分前の予鈴が聞こえて、私は深すぎるため息と共に頭を抱えた。

「ああそうだ獄寺君、あとでちょっと話があるから」
「放課後、残ってて欲しいのなー」
「光は帰っていいぞ」
「「……ハイ」」

恐すぎる3人の笑顔を見て、その日の夜、獄寺に何があったかなんて聞けるはずもなかった。
なんかすごい涙目だったし……。

 
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