風は相変わらず冷たいけれど、青々と晴れている天気の良い日は清々しい。
冬場の晴れの日ってなんでこんなに気持ちが良いんだろう。とは言っても。

「今日は授業参観ということで、みんな緊張していることと思うが、肩の力を抜いていつも通りの姿を見せればいい。先生もいつも通りミスするからな」

そう、今日は授業参観だから清々しくなんてないのだ、まったく。

まあ私はこの世界に親がいない分、明日絶対こないでよ!わかったわよ、って言ったのに来てるし!みたいなやりとりをしなくてすむから別にいいんだけど。ちょう楽!
いやまあそんなやりとり、小学生の時しかしたことないけどねえ。

今月の席替えの結果、獄寺の後ろの席になった私。
何気なくツナの方に目線を向けてみれば、後ろに視線を向けてあからさまに「げっ」て顔をしていた。
その視線の先には、奈々さんの姿。その奈々さんは私と目が合うと「光ちゃん」って小さく口を動かしてひらひらと手を振ってくれた。
なんだか、あったかかった。
そのとき目が合った山本のお父さんも豪快に手を振ってくれて、それに小さく手を振り返す。

この世界の両親ズ優しすぎだろ……うっかり泣きそうになったじゃないか。


「じゃあこの問題…今日は敢えて数学の得意でない生徒からあてていこうかな」

問2をさしてそう言った先生に、何人かの生徒がさぁっと顔を青くする。
その中にツナも入ってることに気付いて、先生も性格悪いなーなんて苦笑した。

「よし、山本いってみるか?」
「ちぇ、いきなりかよー」
「いつもの汚名返上といってくれ」

あきらかにほっとしているツナにシャーペンを握りしめながら笑いをこらえる。
なんでそんなにわかりやすっ……ごほん、可愛いのかなあ。

「んじゃ2分の1あたりで」
「コラ!またおまえは当てずっぽうで…、ん?いや……正解か」

この勘で当たる辺り、山本ってほんとにすごいよなあと感心とも呆れともとれない笑みを漏らす。うわっ獄寺が貧乏揺すりした。どんだけ山本が気に食わないんだよ。
どっとわく教室に、喜ぶ山本親子。
微笑ましいわ……とその様子を片肘ついて眺めていたら、姿勢最悪の獄寺がぼそりと呟いた。

「ったく、くだらねーぜ」

注意する先生もなんのその。
あんまり授業中とかに獄寺をまじまじと見たことなかったからあれだけど、まさに不良だな!腹抱えて笑えるんだけど!
必死に笑いを堪えたけど、忠犬獄公と不良獄寺のギャップがありすぎて、つい、ぷっと吹いてしまった。
瞬間、獄寺の顔がこっちを向いた。すげぇ勢いで。

「てめえ何笑ってんだ!」
「ごめん獄寺が楽しすぎて……」
「……果たす、絶対ぇ果たす!表出ろやコラァ!」
「授業中なんで静かにしてくださーい」
「へらへら笑いながら言うんじゃねぇよ!!」

なんでそんなにキレてんの獄寺。
私の笑いのツボはどっか壊れてしまってんのか、獄寺がキレると笑えて仕方がないのである。
ほらもう今にも笑いのダムが決壊寸前なんだって!頼むから獄寺怒らないで!獄寺が怒る→私が笑う→更に獄寺怒る→もっと私笑う、の悪循環に陥っちゃうから!
そう思うも時すでに遅し。
獄寺はばんっ!と立ち上がって私の机に両手をついた。

「おまえいい加減にしろよ光!」
「いやちょっと待って、まず落ち着かせて、私の腹筋が割れる」

残念ながらルッスみたいにもっと割れちゃうわあ!なんてことはないけども。
でもその私の発言はもっと獄寺を怒らせてしまったようで、気付いたらその両手にはダイナマイトが握られていた。

えっそこまで?
笑い8割焦り2割で顔を引きつらせた。
先生めっちゃ必死こいて注意してるけど聞く耳持たずです。獄寺が。私は一応聞いているし…つーか私被害者やん。いや私が笑ったのが悪いんだけど。笑っちゃいけないと思うと笑いの沸点ってやたら下がるよね。

2、3回咳き込んでやっと笑いを引っ込めさせてから、私は獄寺だけに聞こえるように小さく呟いた。

「今騒いだら、奈々さんの中で君の株は大暴落だね。ツナにも迷惑かかっちゃうよ?」
「申し訳ありませんでした十代目ぇええ!!」

ガッタン!と席に着いた獄寺の姿勢と反応速度はすばらしいものだった。
なるほどそんな姿勢も出来たんだ。いつもぐだってるからそんな姿勢しか出来ないんだと思ってた。半分冗談だけど。
何がなにやらって顔をしているツナにへらりと笑みを向けてから、私はにっこりと不自然なまでの笑顔を浮かべた。

「ごめんなさい先生、授業の続きをどうぞ」
「あ、ああ…じゃあ、問4を……沢田」
「えっ!?あ、はい」

あわあわと慌てているツナを見てから、前に視線を戻す。
獄寺が必死に答えをツナに伝えようとしているのを見て、ほんとにこの子かわいいな……と軽く呆れ、またツナの方を振り向いた。
すると、草履がツナの頭をクリティカルヒットしたのがちょうど見え、あまりにもいい音がしたために私自身に当たったような錯覚を覚え、思わず後頭部を押さえてしまった。

「あいたー!」
「痛っそ……」

絶対今の痛いだろう……リボーンまじ容赦ねえ。
後ろにいる、ツナ曰くキモイおばちゃん、は銃を構えて妖しく目を煌めかせていた。撃つ気満々だな君。

先生を目前に一気に緊張感の種類が変わってしまったツナがあたふたしていると、教卓の方から元気な声が上がった。
聞き慣れた明るい声に、そろそろ収集つかなくなるぞと頭を抱える。

「100兆万です」
「ランボ!!」
「ランボに、イーピン……」

イーピン、止めようとしてくれたんだね……ありがとういい子だよ君。今度ナミモリーヌのケーキ持って遊びに行くよ。
ランボの出現にざわざわとなりだした教室をぐるりと見回して、問題が大きくなる前にランボを連れ出そうとイスを後ろに引いた。
そんな中でもゴーイングマイウェイ突っ切るランボはめげない。いっそめげてくれ。

教卓のところまで行って有無を言わさずランボを抱き上げれば、ランボは一瞬きょとんとした目を私に向けて、そしてにぱあっと年相応の眩しい笑顔を浮かべた。
うっ……可愛い!

「光だもんね!俺っち光に会うためにここに来たんだじょ!」
「そっかあそれは嬉しいな。でも今はね、授業って言って大切な時間なんだ。ランボは外で私と一緒に遊んでようね」
「わーい!わかったあ!」

素直でよろしい。
イーピンも抱き上げて2人の子供と一緒に教室を出ようとしたら、先生に呼び止められた。

「お、おい五十嵐、」
「隼人の授業参観をしているのはここで合ってるわね?」

けれどその台詞は教室の扉の前に現れたビアンキによって遮られて。

「あら光、久しぶりね」
「ビアンキさん」

軽く感動の再会をしている私とビアンキの後ろで獄寺が泡を吹いて倒れ。

「ああ隼人!私がついているから、しっかりして」
「ふがーっ!」

完璧に気を失った獄寺と心配そうなビアンキ。
きゃっきゃと騒ぐランボにちょっと緊張気味のイーピン。
なんだかんだでその4人と一緒に教室を出て行く途中、誰かの親の口にした言葉が耳に届いた。

「牛柄の子達は…五十嵐って呼ばれた子の子供なのかしら」
「まあ!中学生で2人も子供がいるなんて……」
「ふしだらだわ!」

あんたらの思考がふしだらだわ。とは、さすがに言えなかった。

というか授業参観って、こんなにどたばたするものだっけ……?

 
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