「"なあ光、今日暇?"」
「"……一応"」
「"ありっ、もしかして寝てた?だったらごめん!"」
「"んー山本だからいいよー……何?"」
「"、あのさ、"」

一緒にバッティングセンター、行かね?

その言葉に私の寝ぼけ眼は、ぱっちり覚めた。


――…


ひんやり冷たい冬の風を感じながら、ふぅと息を吐く。白く染まるそれが消えていくのを見ていたら、少し向こうでカキーンと小気味良い音が響いた。

「うわ、またホームラン?山本絶好調だねえ」
「光がいてくれるからなのな!」
「いやあ山本の実力だよー」
「いやー光のおかげなのなー」

山本武のメロメロパンチを食らった気分だ……なんでこの子こんなに可愛いんだろう。あっ天使だからか。結論出ました。

ベンチに座って温かいココアを飲んでいる私と正反対に、山本は絶好調にホームランを出しまくっている。
ほんとに野球うまいなあなんて、感心。
こうやって見てるとバットにボールを当てるのなんて簡単なんじゃないかって思えるけど、まあそんなわけもなく。
私は10球中の3球打てれば良い方で、始めたばかりの頃はそれでもすげーよ!と笑う山本にそれはそれは癒されたものである。これから上達するって!とも。
ま、上達しなかったんですけどね!

んー、初めて一緒にバッティングセンター来たのは夏休みだよな。
あの時はバッティングセンターのおっちゃんに「おっ山本君の彼女かい!?」とか訊かれて恥ずかしかった……あれは恥ずかしかった。2人して真っ赤になりながら全力否定とかもう笑うしかない。
あれからちょくちょく来てるし、私って案外アウトドア派だったんだなあ。
そんなことを考えていたら、とりあえず打ち終わったらしい山本が牛乳のパック片手にこっちに駆け寄ってくるのが見えた。

「光は打たねーのか?」
「後で1回だけ打とうかなーと。山本はもう終わり?」
「じゃあ俺も次ラストにすっかな」

ニカッと笑う山本の笑顔にノックアウトです。ほんとに君はよく笑うなあ。その笑顔に私の心はぽっかぽかだよ、うん。
あと少し残ったココアのストローを口に含みながらちょっとにやけていたら、山本が、こっちをじぃと見つめていた。
その視線は、私……というよりはココアに向いていて。

「飲む?」

と、思わず聞いてしまった。

「お、いいのか?」
「え?うん……あ、代わりに牛乳ちょうだい」

ぱぁっと輝いた山本の顔に、どんだけココア欲しかったんだよと笑いながら、ココアのパックを差し出す。
じゃー交換こな!ってココアを受け取った山本に牛乳を渡され、特に私は何も考えずに牛乳のパックのストローに口を付けた。
べこんっ、て紙パックがつぶれる音。
やっぱ並盛牛乳美味しいわーなんて思いながら牛乳を飲み込んで、ストローを離そうとした。そのとき。
ココアをずこーって飲んでいた山本が不意にストローから口を離して、私の方を向いた。

「あ!これってあれだよな、間接キス!」
「ぶふっ!」

吹いた。全力で吹いた。
幸いにも口に何も入ってなかったから良かったものの!
げほごほ咳き込む私の背中をさすりながら、大丈夫か!?とか聞いてくるけど山本、君のせいだから。君の爆弾発言が原因だから!
そうだそうじゃん私なにナチュラルに山本にパック渡してんの?何も気にしてなかった…不意打ちすぎる。
そんでそれを何も気にせず受け取った山本もどうかと思うけど!
てか気にせず受け取ったなら、最後までその事実に気がつかないでいて欲しかったよ山本くん。

「ははっ、光とキスしちまったのなー」
「っちょ」

可愛いいいって悶えればいいのか恥ずかしいいいって悶えればいいのかわかんない発言はやめてください!
見なくてもわかるくらい真っ赤に熱を持った頬をどうにか冷ませないかと手袋をはずして冷えた手を頬に当てた。
うっわほっぺめっちゃ熱い。

「んじゃっ、休憩終わったしもっかい打って帰るかー」
「え、あ、うん。そうだね」
「光も次はホームラン目指そうぜ!」
「いや、それは無理」

なるほど、山本は特に他意があって間接キス云々を口にした訳じゃないんだな。
これが山本が天然たる理由なんですね、そっかわかった!
山本全然気にしてないし、じゃあ私も気にするのやめよう。なんか自意識過剰のイタイ子みたいだ。なんたる。

バットを持って歩いていく山本の後ろを、私もバットを持って追いかけていく。
私よりだいぶ高い位置にある山本の耳が赤かったなんて、私に見えるわけもなく。

 
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