1月1日。
あっという間にいつのまにやらお正月です。
この世界に来て初めてのお正月。これは初詣に行くしか!

「ってわけで仕方ない、獄寺ー初詣行こー!」
「何が仕方ねぇんだよ」
「いやほら、連れがいない同士しゃーないみたいな」

ツナは奈々さんはじめちびっ子たちと。山本はお父さんと。京子ちゃんと了平さんはもちろん両親と行くっていってたし、それはハルも同様で。
まあ元日は家族で過ごすもんだよね。

とはいっても、私はこの世界に家族がいないわけで。
獄寺もなんか珍しく十代目はご家族でごゆっくり云々言って遠慮してたから、なんか2人でぐだぐだと正月の特番見てるだけなんだけど。
……つーか何で獄寺、ナチュラルに私の家の方いんの?今更だけど。

「今くらいの時間帯なら人も減ってるだろうしー」
「……」
「神社でツナの健康とかでも祈るべきじゃないのー右腕なら」
「よし行くか!」
「この十代目馬鹿……」

扱いやすいからいいけど。


寒くないようにダウンジャケットを着ていたら、獄寺がじぃっとこっちを見てくる。
その表情はなぜか不思議そうで、ブーツを履きながら「何?」と問いかければ、至極当然の問いであるかのように首を傾げられた。

「おまえ、何で着物じゃねーんだ?」
「は?」
「日本人は初詣に着物着てくんじゃねえのか」
「え、ああ……まあそういう人もいるだろーね」
「着ねえのか?」
「いやだって持ってないし」

着ようとすら思ってなかったよ。
だってほら、あんなん着たら動きにくいしお腹苦しいし……だいたい着方知らないし。

「……ふーん」
「何その不服そうな顔」
「別に」

一緒に家を出てすぐ、煙草を取り出して火をつけながら呟いた獄寺は、明らかに何かを気にしてる、っぽい。

……にしても獄寺の煙草つける仕草ってかっこいいよなあ。見惚れるわ。
なんとなく獄寺を見上げていたら、その視線に気付いたらしい獄寺にパッと視線を逸らされた。なんだなんだ。耳が赤いぞ獄寺君。

「おらっ、さっさと行くぞ!」
「自転車で?」
「の方が早ぇだろ」
「でも1台しか無いけど」
「2ケツすりゃいいだろーが」
「雲雀さんに見つかったら怒られるよー」
「返り討ちにしてやらぁ」

いや無理でしょ。そう思ったけど取りあえず言わないでおいた。

私の自転車の前に乗ってペダルに足をかけた獄寺が、早く乗れって言ってくるから仕方なく後ろに跨る。
まあ本当に雲雀さんと会っちゃったら、友達権限でどうにか許してもらおう。トンファー一発くらいなら我慢出来…でき……お、お尻ならなんとか……?いやトンファーで女の子のお尻ぶっ飛ばす雲雀さんとか見たくないな……。


そんなこんなで、進み出して数分。
獄寺には触れずに荷台のとこに手を置いていたら、左手をハンドルから離した獄寺に腕を掴まれた。

「な、なに」
「……ンなとこ持たれたらバランス取りにくいんだよ」
「はあ、」
「しっかり、しがみついとけ」

掴まれた腕を、無理矢理獄寺の腰に回されて、びっくりする。
……いや、いやいや、バランス取りにくいからだし、それだけだし……。だから熱くなるなって私の顔!

赤い顔を冷ましながら、両腕を獄寺の腰に回して、獄寺のお腹の前で自分の手首を掴む。
しかしこうしてみるとあれだな、獄寺腰ほっそいな!くそっ羨ましい!
あまりの羨ましさに顔の火照りも心なしか冷めていく。なーんであんな食生活でこのウエストを維持できるのかなあ。運動量の違いか体質か……。

くだらないことを考えながらふと顔を上げれば、獄寺の耳が真っ赤になっていた。
何この子まじかわいい……っ!萌え殺す気か!?


――…


……何、やってんだ俺。

半ば強引に腰に回させた光の腕を意識しすぎて、心臓がうるせえ。
光がすぐ後ろにくっついてるっていうのに、聞こえたらどうすんだ、くっそ落ち着け心臓!

んなこと思っても静かになるわけなくて、ぐるぐるした思考のまま、神社へと自転車を走らせた。
その間、俺も光も、ずっと無言だった。

「着いたーっ!」
「嬉しそうだな」
「いやなんだかんだ来るの初めてだから……つい」

中途半端な時間だからか、神社は確かに人が少なかった。
ふわふわ揺れるスカートのことなんかまったく気にせず、軽快に階段を登っていく光の後ろを、ゆっくり進む。
いつも年上みたいに見える光も、こうやってはしゃいでいればそれなりに同年代に見える。

絵馬を書いた後におみくじを引いていた光に、獄寺もやったら?と微笑まれ、財布から100円を取り出す。こんだけのために100円も取るなよなと思うが、まあ、仕方ないんだろう。多分。

「私中吉だった。獄寺は?」
「……中吉」
「うっわ同じじゃん」

出た数字も結果も、もちろん内容も同じ。
こんな偶然あんのかって、びっくりした。それは光も同じらしく。

「じゃあ今年1年は獄寺と運命共同体ってわけか……」
「嫌そうにすんじゃねぇよ」
「そこまでしてないよ!」
「そこまでってことはちったぁしてんじゃねーか!」
「……とっとりあえず結んどこっか」
「誤魔化すの下手か……」

中吉のおみくじを結びつけた光の隣に、俺のも結んでおく。
大吉だったら良かったのにねえ、と笑う光は、それでも十分嬉しそうに見えた。
……俺が大吉だったら、こいつにやれたのに。

賽銭をいれて、何かを必死に祈っている光を横目に見てから、俺も目を瞑った。
考えるのは勿論、十代目にお怪我がないようにと、ボンゴレの安泰。……それ、と。

数秒経って、よしっ!と口を開いた光と共に、最初に登った石段を下りていく。

「おまえ、何願ってたんだ?」
「ん?いろいろー」

――喋っちゃったら効かなくなりそうだから、秘密だけど。
そう笑った光にそんなもんなのかと、俺も口をつぐんだ。

また自転車に跨り、光も後ろに乗る。今度は俺が何も言わなくても、光は腰に腕を回してきた。
それに、柄にもなく心臓のあたりがじんわりと温かくなる。
けどそれが何なのかはイマイチわかんねえから、気にしないようにペダルを強く、強く踏んだ。

 
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