授業終了を知らせるチャイムと同時にあくびを漏らして、ぶるるっと寒さに身体を震わせる。

今更ながら、もうすっかり冬だなあ。
廊下側一番後ろの席の寒いこと寒いこと。これは雲雀さんに教室扉の作り替えを申請した方がいいかもしれない。すきま風やばい。


今日最後の授業がやっと終わったと立ち上がり、学級委員長の挨拶と共に礼をして、また座る。
携帯で、今日は確か卵のセールがあったよなあとメモを探っていたら、ふと私の身体に影がかかった。

「ん?」

顔を上げれば、そこには京子ちゃんが立っている。
きょとん顔の私と違って、彼女はえらく切羽詰まったというか、緊張気味の面持ちをしていた。
どうしたの?と首を傾げれば、京子ちゃんは頬を緩めて、口を開いた。

「あのねっ、光ちゃん。明日一緒に、2人で、お買い物に行かない?」

2人で、を随分強調したように聞こえたけれど。
どうやらお誘いらしい。京子ちゃんから。あの京子ちゃんから!並盛山での研修以来なかなか話す機会の無かった京子ちゃんからのお誘いだひゃっほう!……落ち着こう。

「買い物?」
「うん!商店街に新しいお店がいっぱい出来たばかりなの!」

そう笑う京子ちゃんに、可愛いなあああと思わず口元がゆるんだ。落ち着けるはずがない。
まさに女の子。もう女子の鏡だよ京子ちゃん。そのまま是非私のお嫁さんになって欲しいくらいだ。

そんなことをつい考えてしまいながらも、そういえば商店街にアクセサリーショップやファッション系の店が数店オープンしたと朝のニュースでやってたなと思い出す。
可愛い感じの店だったし、興味はあったっちゃーあったんだけど、行く機会というかなんかがなくて、行かず仕舞いだった。
もちろんそんな私に、京子ちゃんのお誘いは謂わば「キタコレ!」状態なわけで。
京子ちゃんを見上げて、にっこりと笑みを浮かべた。

「是非!京子ちゃんと一緒なら、とっても楽しそうだしね」
「ほんと?そう言ってもらえると、嬉しいな!」
「京子ちゃんが嬉しいと私も嬉しいよ」

素敵な笑顔ごちそうさまでーっす!

「じゃあ、13時に駅前集合でいい?」
「うん、わかった」
「えへへ、楽しみだなあ」

っ何でそんな可愛いこと言うかな、この子!
胸キュンしたわ今……心臓打ち抜かれた……。

「私も楽しみっ!」


――…


そして次の日。
お気に入りの服を着て、ブーツを履いて。誰もいない部屋に向かって「行ってきまっす!」と口にしてから、小走りでアパートを出た。

駅前についたのは集合時間の10分前で、まだ来てない京子ちゃんにほっと安堵の息を吐いた。
女の子を待たせるなんてこと出来ないもんね!いやまあ私も女の子ですけどね!

ベンチに腰掛けて、ぼんやり、京子ちゃんと何を話そうかなあとか可愛いアクセや服があったら買おうとか、いろいろ考える。
見上げれば雲ひとつない青空で、12月も半ばにしてみれば比較的暖かい方だった。
なんという買い物日和!これはもう私と京子ちゃんの初デートを神様が祝福してるとしか思えないな。神様いるのかどうか知らないけども。

「っあ、光ちゃんっ!」

少し向こうの方から、駆け足でこっちに近寄ってくる女の子。もとい京子ちゃん。
思わずぱあぁっと顔が輝いてしまった。それはもう、迷子が母親をようやく見つけた時の如く。

「ごめんねっ、待った?」
「ううん、全然!さっき来たばっかだから」
「そう?良かったあ」
「てか京子ちゃんも5分前だしね。余裕だよ」
「なんだか、光ちゃんとお買い物に行くんだーって考えたら早く準備できちゃって……」

えへへ、と京子ちゃんが笑う。なにこの子天使。

しかしさらっとベタに初々しいカップルのデート風景を作り出してしまったね!
私の姿を見つけてから走ってきたと話す彼女は、その言葉の通りちょっと疲れているようで、きゅんとした。キたわ。

「あ、じゃあ行こっか」
「うん!」

今日着てる服を褒め合ったり、昨日見たテレビや学校のことを話したりしながら、2人並んで商店街へと向かう。
ついてからは、服を見て回ったり、ちょっとケーキ屋さんでお茶したりと目一杯楽しんだ。

そしてそろそろ日が暮れてきた頃、最近出来たばかりのアクセサリーショップに入った。
京子ちゃんやハルに似合いそうな可愛い感じのものから、獄寺が好みそうなゴツイやつもある、品揃えの良い店。
ちなみに私はどっちもつけないけど集めるのは大好きです。

「わあ、光ちゃん見て。これすっごく可愛い!」
「お?おー可愛いねぇ。京子ちゃんに似合いそう」
「ほんと?でも光ちゃんにも似合うと思うな」

にこりと笑う京子ちゃんの手にはさくらんぼをメインモチーフにしたブレスレット。
シルバーのチェーンにさくらんぼの形をしたチャーム、葉っぱの形をしたチャーム、ハート型のチャームがバランスよくぶら下がっていて、ほんとうに可愛い。
さくらんぼの実の部分にはピンクの石がついていて、他にも赤や黄色の物もあった。

値段も手頃だし、いいなあこのお店。今度獄寺を連れてきてあげよう。

ふぅんとそのブレスレットや違うものも手にとって見てみる。
鍵や十字架やハート、果実に鳥に靴、他にも動物や星とか、ほんとに種類豊富だ。

「……京子ちゃん?」

ある程度店内を見て回ってから、一ヶ所で立ち止まってる京子ちゃんに近付く。
横から覗き見た彼女の手には、さっき見ていたさくらんぼのブレスレットが乗せられていて。

「ねぇ光ちゃん、迷惑じゃなかったら、これお揃いで買わない?」

自分の手には黄色いさくらんぼのブレスレットを持って、京子ちゃんはピンクの方を私に見せる。
その表情がやたらと真剣に見えて、思わずきょとんとしてしまった。

「あ、ごっごめん、迷惑だよね!」
「えっ?!いやいやいや違っ」

そんな私の顔を見た瞬間、ブレスレットを棚に戻そうとする京子ちゃんの手を慌てて掴んだ。

「そんなこと私に言ってくれるとは思わなくて、びっくりしただけ。嬉しいなあ、むしろこっちからお揃い買おー!ってお願いしたいくらいだもん!」

あわてて、早口で捲し立てるように言えば、京子ちゃんはさっきの私みたいにきょとんと目を丸くして、そして、ぱあっと明るく顔を綻ばせた。
うぇあ可愛いいい!!こんなことで喜んでくれるとかまじ良い子すぎる。涙出そう。

京子ちゃんの手からピンクのさくらんぼのブレスレットを掬い取って、んじゃお会計しよっか!とレジへ向かう。
後ろではにかむ、京子ちゃんの嬉しそうな顔になんて気付かずに。

「ありがとうございましたー」

店員さんの声を聞きながら店を出れば、もう日はとっぷりと暮れていた。
時間的にはそうでもないのに、冬はこれだから嫌なんだよね。夏よりは好きだけど。

店を出てすぐ、早速買ったばかりのブレスレットを手首につける。
京子ちゃんとお揃いのそれを互いに見せ合って、えへへと笑った。二人の手首で、黄色と桃色のさくらんぼが小さく揺れた。

 
back
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -