「おっお邪魔します……!」
「何キョロキョロしてんの。こっちだよ」
「はい……」

今日の私は、雲雀さんのお家に来ています。
以前雲雀さんとした、雲雀さんの家の庭を描くっていう約束をですね、果たすためになんですが。
これまたすんごい豪邸だな、と。

塀は長いわ家はでかいわ。
うちのアパートなんざ比べものにならん。なんて言ったら大家さんに失礼だけども……。
この家、下手したら日本の文化財とかになってんじゃないかってくらいのすごさだ。雲雀さんらしく、まさに和風!

「ああ田中、後で僕の部屋に茶菓子とお茶、持ってきて」
「かしこまりました」

廊下ですれ違ったのは、40代後半くらいの女性。って、お手伝いさん的なあれですかもしかして!
雲雀さんに深くお辞儀をして、私にも同じ対応をした……田中さんに、私もぺこりと頭を下げる。そして、早くしなよと襖の向こうから呼んできた雲雀さんの後を追った。

うわあ、雲雀さんまじで金持ちなんだ。
なんか元の世界で、貧乏な雲雀さんと金持ちの雲雀さん、みたいな感じのアンソロがあったなーなんてぼんやり思い出した。私とか友人は、金持ちじゃないとあんなこと出来ないだろーって笑ってたけど。
全国の雲雀ファンのみなさん、雲雀さんはお金持ちでしたよ!しかも多分相当レベルの高い!


ここに座って、と雲雀さんに指定された座布団の上に、緊張しながら正座する。
正座とか苦手なんですけどね!なんかこの空気はせざるを得ないといいますか!

肩にかけていたスケッチブックや鉛筆諸々が入ったカバンをおろして、立ったままの雲雀さんに視線を向ける。
雲雀さんは小さく口角を上げると、しまっていた縁側の引き戸を、静かに開けていった。

その向こうには、息を呑むほど綺麗な、紅葉の景色。

「……っわ…」
「どう?僕がこの家で唯一、気に入ってる場所だよ」

雲雀さんの声を聞きながら、私は無意識に立ち上がって、縁側まで歩いていっていた。

一面、燃えるような紅。
写真やテレビでしか見たことのないような日本庭園の姿に、茜色の紅葉は見事なまでに合っていた。
すっご……圧巻。

「いや、なんかもう…綺麗すぎて、言葉が出ない……」

私の返答に満足してくれたのか、雲雀さんは薄く目を細めた。
そして部屋の中央に置いてあった座布団を取りに行って、またこっちに戻ってくる。
縁側に2つの座布団を置いた雲雀さんに、そこに座るよう促されて、私は机の側に置いたままだったカバンを慌てて持ってきてから、そこに座った。やっぱり、正座になった。

「好きに描いていいよ。邪魔なら僕は別の部屋に行ってるし」
「え、あ、いやっ、居てください是非に!」

こんなすごいお屋敷に1人とか耐えられませんから!

「そう」

ふわり。
ここ最近見ていなかった、あの雲雀さんがすっごく稀に浮かべる、優しい笑み。
その笑顔に、本当に私の描く絵を好きでいてくれるんだなあって、恥ずかしいやら嬉しいやら、つい顔が赤くなってしまった。

「そういえば、光」
「は、はいっ?!」
「……、」

そこまで言って、雲雀さんはふと口を噤む。……な、何なんですか…。
私がどうかしましたか?と首を傾げれば、雲雀さんはそっとため息をついて、ふるふると首を左右に振った。

「……まあ、いいや」
「えぇえ、私が良くないんですけど……」
「光には関係のないことだよ」
「私に話しかけたのに!?」

なんという。さすが雲雀さんと言うべきか……。

それ以降、だんまり状態になってしまった雲雀さんにはもう何も訊けなくて、仕方なく私はスケッチブックに鉛筆を走らせた。
まあすぐに雲雀さんのこともすっかり忘れて、この綺麗な庭園を描くことに夢中になってしまったわけなんですが。
あと和菓子とお茶が美味しかったです。

 
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