10月14日。今日はツナの誕生日だ。

にも関わらず、その本人は今現在入院中。
それはもちろん昨日あったリボーンのボンゴリアン・バースデーパーティーの所為で、ツナはまったく悪くない。敢えて悪い人をあげるなら、まあリボーンと獄寺ってとこだろう。
山本に電話で事のあらましを聞いた後には、つい獄寺の晩ご飯だけ激辛味にしてしまった。

私はリボーンのバースデーパーティーには行っていない。けど、ちゃんと獄寺にケーキとエスプレッソ用のカップを持ってってもらったから、最下位だったり不参加にはなってない、らしい。
あとで山本に聞いてみたら、99点だったとか。100点じゃないのが悔しい。


――…


沢田綱吉と書かれたプレートのある部屋の扉を、そっと開ける。
ひょっこり顔を覗かせてみれば、ベッドの上でツナが苦しそうに眠っていた。……なんだ、寝てるのか。
起こさないようにゆっくり病室に入って、静かに扉を閉める。
サイドテーブルにお見舞いのフルーツ詰め合わせと誕生日プレゼントを置いて、ベッドの脇にある小さな丸椅子に腰がけた。

包帯を巻かれて、ほっぺにはガーゼ、あちこちに湿布を貼られているツナの痛々しい姿を見て、昨日行かなくて正解だったと思うと同時に、どこか申し訳ない気分にもなった。それと、わずかな怒り。
リボーンのしていることに今更文句を言う気はないし、すべてが積み重なってツナの為になることもあるんだと思う。

なんか……耐性とか、つきそうだし。

それでもやっぱり、ほんの少し前までは普通の中学生……ううん、今でも普通の中学生なツナに、ここまでやらせるなんてって思ってしまう。

「……心配、ねえ」

リボーンが憎いわけじゃないけど、いつかこの怒りが爆発してしまったらと思うと、なんかアレだ。
私、のめり込みすぎなんじゃないかな。やっぱり、もっと後ろから眺めてた方がいいんじゃ……。
まあそう思うのも全部、ツナが……みんなが好きだからこそ、なんだけど。

怪我をして欲しくない。
平和な世界で、普通の子のままでいてほしい。

「怪我したツナなんて、見たくないよ」

そう呟いた、瞬間だった。

「っ、え、何…っ!?」

あの封筒に入っていたリングが光るのは、これが3回目だった。
リングが鈍い光りを発し、薄墨色の球体が私を中心に広がっていく。それは、ツナをも包んでいって。
このリングが何なのかはまったくわからない、けど、私が"拒絶"したものがこの球体の中に入ってくるのを拒む、っていうことだけはなんとなく理解していた。

私は、今、何を拒絶した?


――「怪我したツナなんて、見たくないよ」


ぞわりと背筋が凍った。
一瞬、ツナの姿が霞んで見えて、息をのむ。

「だめっ……!」

ぎゅうっと。強く、ツナの手を握りしめた。
その手が消えないように、祈りながら。

数秒か、数分後か。
パンッ、とシャボン玉が弾けるような音と共に、私とツナを包んでいた薄墨色の球体は消えて、鈍く光っていたリングの光りも消えた。
ツナの身体は温かく、まだ、此処に在る。

「良かっ、た」
「う、ん……光……?」

私のせいでツナが消えてしまうなんて、シャレになんない。
泣きそうな、というか既に涙の溢れきった目でツナの手をもう一度両手で握りしめれば、うっすらと、ツナの目が開かれた。
安堵のため息が、涙と一緒にこぼれる。

「ーっえ、ちょっ光!って何で泣いてんの!?」
「つ、つな、良かっ…、良かった、何もない?身体、平気?」
「うん平気!元気だから!だから泣かないで光ー…って、あれ……?何で俺、身体……あれっ」

ぽむ、ぽんぽん、と自分の身体を叩いたり、ぐるぐる肩を回したりする、ツナ。
えっちょ、昨日あんな怪我したばっかなのに、そんなことしたら!

「全然…痛く、ない」
「……え?」

ベッドからおりて病室を歩き回ったり軽くジャンプしてみたりするツナは、包帯を巻いてあることを除けば健康そのものに見えた。
疑問符を浮かべるツナに、私は何も言えなくなる。


リングは、あの拒絶反応を起こしていた。
でもツナは何ともなくて、怪我だけが消えている。……私は、何を拒絶した?
……ツナの"怪我"を拒絶した。

だからツナの怪我が治ったのかな、と思案しているうちに、ベッドに戻ったツナがサイドテーブルに置いていたチェック模様の包装紙とリボンに包まれた箱を、発見していた。

「これ……?」
「えっあ」

何?と訊かれ、妙な気恥ずかしさを感じる。そりゃそうだ、男子にプレゼントあげるのなんか、何年ぶりだろうってくらいだし。
小さめの細長い箱を手に取り、へらりと頬を緩めてツナに差し出した。

「ハッピーバースデイ。1番のりかな?」
「……っ光、俺の誕生日、知ってたの?」
「うん。なんか入学したばっかの時に担任がプロフィール書かせたじゃん?クラスメイトの。それ見たの覚えてた」

そういうの好きな教員っているよね。

「すっごく嬉しい!ありがとう、光!!」
「……私も嬉しい」
「え?」
「あっいや、そんなに喜んで貰えると、こっちも嬉しいなって」

本当は、本物のツナにプレゼントをあげることができて、ってことなんだけど。言えるわけないし。

開けてもいい?って少し紅く染まったほっぺのツナに訊かれ、もちろんと笑う。
いそいそとリボンをほどいて、すごく丁寧に包装紙をあけていくツナを、どきどきしながら眺めた。
ツナって、こういう包装紙とか破っちゃいそうなイメージあったから、こんなに丁寧にあけるとは思わなかったな。それもなんだか、嬉しく感じる。

「ペンダントと……万年筆ぅ!?」
「なんかボスっぽいものやれってリボーンに言われたから……」
「何言ってんだよリボーン!」

いやまじで、わざわざ電話してきたからね。
ツナにプレゼントやるならボスっぽいものにしろよって。もうペンダント買ってたのに。

「わっ、ちゃんと俺の名前書いてある」
「書き易さは保証するから、まあ使えるときにでも使って?」

側にあった入院用の書類の端っこに試し書きをしたツナが、うわホントに書きやすい!と驚いている。
いやまあそれ……某高級万年筆メーカーのだしね、うん。敢えて何も言わないでおくけども!

ペンダントの方はペンダントトップがシルバーとゴールドの2枚のプレートになってるやつ。
えっ……見えにくくなってる2枚が重なってる部分のシルバーの方にこっそりボンゴレの紋章入れたとか秘密だし……。
なんかデザインはかっこいい感じのです。中学生男子が喜ぶものなんて私にはわかりませんよ!

「ほんとにありがとう、光。俺まじで嬉しい」
「うん、そっか。良かった」

でもツナは本当に喜んでくれたみたいだから、安心した。

 
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