本当は、あまり体育祭には出たくなかったんだけど。

「日頃サボってばかりなんだから行事くらい出なよ」
「まさか雲雀さん直々に家まで呼びに来られるとは思いもしませんでしたよ」

バイクに乗って我が家にやって来た雲雀さんに強制的に起こされ、学校に行くことに。
ところで雲雀さん、私ちゃんと鍵閉めてたはずなんですけど。不法侵入はあなたのデフォなんですか?私のプライバシーは無いんですか?
…あっ、今更か。

「ところで雲雀さん」
「何」
「風紀委員ともあろうお方がヘルメットせずにバイク運転して良いんですか」
「ルールは僕だよ」
「……そうですか」

しかしまさか雲雀さんとバイク乗って学校に行く日が来るとは思わなかったなあ。
私、かなり恵まれてるんじゃなかろうか。


でも体育祭はやっぱり嫌だなあはは。

「五十嵐さんは借り物競走とピョンピョンレースの女子だから」
「あ、はい。2つもあるんですか」
「だってあなた休んでたんだもの」

ですよねー。

順番的には借り物競走の次にピョンピョンレースらしく。
さっそく、借り物競走のために入場門へと向かった。まあ走る速さが問題ではないし、借り物競走のメンバーは文化部の子達が目立つ。そういや私も帰宅部だ。

スタートの音と同時に走り出して、パン食い競争のように吊された封筒を手で引きちぎり、封筒を開きながらマイクの前へ走る。
えーっと書かれた内容、は……。

「……いやいやいや」

マイクの前で呆然としていたら、他のチームの人に「早くしろよ!」と怒鳴られる。
それさ、君、私の封筒の中身見てから言えって。何も言えなくなるから。

それでもマイクの前でそれを言わなきゃいけなくて、深すぎるため息を吐いて、ぼそりと呟いた。

「……風紀委員長の学ラン」

今ツナの「えぇえ!?」って声が聞こえた。

てゆーか誰だよこんなん書いたの!あれだよね、体育委員とかだよねこれ用意したの。何なの誰かを物理的に死なせたかったの?それともネタになると思ったの?
笑えないよこんな、もはや罰ゲームにすらならない肝試し。

後ろでぶーぶー言っていた他チームの人にも哀れみの視線をいただきました。いりません。
しかし一度取った封筒はチェンジ出来ず、私がゴールしなきゃ次の子は走れないため行かなきゃいけない……と。

良かった私、雲雀さんとお友達で!にしてもベタだなちくしょう!!


小走りで校舎へ向かい、多分いるはずの応接室へ急ぐ。
けど、応接室に行くまでもなく、下駄箱のところに雲雀さんはいた。

「あっ雲雀さん!学ランください」
「いやだよ」
「何でだよう」

唐突なお願いは案の定、即却下されてしまった。思わずむくれっ面になる。

「何で僕が君に学ランをあげなきゃいけないの」
「じゃあ貸してください。クリーニングして返しますから」
「いらないよ」
「じゃあクリーニングせずに返しますから貸してください」
「尚更嫌だよ」

何回お願いしても嫌の一点張りな雲雀さんに、じゃあ何で私を体育祭に連れてきたのか問いたい。くそう。
それでも引かない私をちらりと見て、雲雀さんはため息をひとつ吐くと、貸してあげてもいいよ、とつぶやいた。

「まじすか」
「ただし」

にやりと悪役さながらに笑う雲雀さん。
なんかまたベタな展開だぞ……嫌な予感しかしねえ。

「今度、僕の家の庭を描いてもらいたいんだ」
「はあ……庭、ですか」

そりゃ雲雀さんの自宅でしたらさぞ綺麗な庭なんでしょうけど。

「そんなことでいいんですか」
「うん」
「あ、じゃあ学ラン貸してください」

ほいと手を差し出したら、小さく呆れたようなため息の後、雲雀さんはばさりと学ランを脱いで渡してくれた。
ありがとうございまーすとお礼を言って雲雀さんに背を向ける。
終わったらすぐ返しに来てよ、との言葉を背後に聞きながら、ひらひらと手を振ってグラウンドへと走っていった。

雲雀さんの学ラン片手に現れた私を見て、会場は一瞬静けさに包まれました。

 
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