「そういえば獄寺、最近弁当なのな」
「あ?ああ」

言われてみれば、確かに2学期に入ってから獄寺君のお昼はずっと弁当だ。それも母さんが作るみたいに、全部手作りの。
獄寺君って1人暮らしなんだよな……自炊できるなんてすげー。人は見かけによらないな。

でも、何でちょっと焦ってるんだろう。
いつもなら「てめぇには関係ねーだろ!」くらい言いそうなのに、変にどもってる。
……何か理由があるのかな?


「もー秋かー」

食べ終わった弁当をしまいながら、けれどまだ暑さの残る空気にため息をつく。

「夏休みもあっという間に終わって、なんかさみしーなー」
「補習ばっかだったしな」
「アホ牛がブドウブドウって最近ウザくねースか?」

なんだかんだ獄寺君はランボのことよく見てるよなあと思いながら、昨日のことを思い出す。
ブ・ド・ウ!ってテレビを見ながら叫んでたランボは、一瞬後にリボーンの手によってブドウの汁まみれになっていた。あれは片付けが大変だった…うん。

「栗もうまいぞ」

と、唐突に聞こえてきた声とともに飛んできた、トゲトゲの物体。
それは正真正銘栗で、犯人はリボーンに決まってるのだと振り返れば、今度はでっかい栗、もといリボーンに刺さった。

「いたいいたい刺さってるー!!」
「これは秋の隠密用カモフラージュスーツだ」
「100人が100人振り返るぞ!」

しれっと答えるリボーンには学校に出没するなって何度も言っているのに、こいつは俺の話をまったく聞こうとしない。まったくひどい話だと思う。
そんな俺を思いっきり無視して、リボーンはにんといつもの笑顔を浮かべ、毎度のことながら無茶なことを口にした。

「ファミリーのアジトを作るぞ」
「はぁ!?」

冗談じゃないと思う俺を余所に話は進んでいく。
獄寺君も山本も何でそんなノリノリなの!?

ここに光がいたら少しは展開が違ったんじゃないかとか、アジトのこと反対してくれたんじゃないかな……なんて考えて、やっぱり光も一緒に弁当食べようって誘えば良かったと後悔した。
光の言うことならリボーンも耳を貸しそうなのに。

そんなことを考えていたら応接室にアジトを作ることが決定してしまったらしく、山本と獄寺君はかなり乗り気で会話していた。

ま、まじで……?


――…


1人楽しすぎる弁当タイムを終えて、呼び出されていた応接室に向かっていた私。
コンコンとノックして、今度はちゃんと雲雀さんの「入っていいよ」が聞こえてからドアを開ける。

「正式に風紀委員がここ使うの決定したらしいですねー」
「当然のことだよ」
「ある意味職権乱用ですよね」

数十分前に廊下の窓からボロボロにやられた生徒が見えた。
それを見て、雲雀さんからのメール(応接室が正式に風紀委員のものになったよ的な)も見て、ああアジトを作ろうぜ!ってリボーンがツナたちに無茶ぶりをする日が今日だったかと……、今、気がついた。

つまり応接室に入ってしまってからです。遅いです。

今昼休みじゃんよー……入ってすぐ出てくのもおかしいし……。
頭を抱えていたら雲雀さんに怪訝そうな表情を向けられた。それはそれで格好いいですけどなんか腹立つ視線だな。

「とりあえず私お茶入れてきますね!」
「……何か企んでるの?」
「人がたまには言われる前に行動しようと思ってみれば、その言いぐさ。泣きますよ」
「別にどうでもいいけど」

冷たい。

「取り敢えず冷蔵庫に水ようかん入ってるから」
「わかりましたー」

私がお茶を用意しに行ったのと、山本が応接室に入ってきたのは、ほぼ同時だった。


水ようかんを口に含み、その丁度良いさっぱりした甘さとみずみずしさに感動しながら、耳に届く争う声と騒音にため息。
さっきツナが死ぬ気モードになった声が聞こえた。てことは、もうすぐこの部屋はリボーンの手によって爆発する。

……私は大丈夫だろうけど、雲雀さんはどうやってあの爆風から逃れるんだろう。
雲雀さんなら大丈夫なんだろうか、俊敏そうだし、とは思うけれど。

「おひらきだぞ」

お皿に乗せていた水ようかんを全て口の中に放り込んでから、私はぎりぎり手の届く範囲にいてくれた雲雀さんを、強く自分の方に引き寄せた。


一瞬後に響いた大きな爆発音に耳を押さえて、目も閉じる。
少し経って目を開けば、もくもくと黒煙が窓から出ていくのが見えた。他はすべて煙にまみれて、視認できない。

とにかくこの部屋にあったものは、全部壊れたと考えて問題ないだろう。
……あーあ、ふっかふかのソファーが。

「光……、何なの、君」
「言っときますけど、これは私がやったんじゃありませんからね」

胸元で鈍く光っていたリングの光が消えると同時に、私と雲雀さんを包んでいた薄墨色の球体も消えた。
私たちが立っていた場所だけ、瓦礫一つなくきれいな床のまま。

封筒に入っていたリングの力。
私にもよく、わからないけれど。

「、……」
「?どうしたんですか、雲雀さん」

ふと雲雀さんが、一箇所に目線を留めたまま唇をきゅっと結んでいることに気付いて、私は雲雀さんの視線を追う。
そこには、淡い桃色の残った紙切れがあって。何なのかわからなかったけど、目を凝らして見てみれば、それは私が雲雀さんにあげた、並中の絵だった。

「ごめん」
「……え、えぇ?」

片膝を立ててしゃがみ込んでいる雲雀さんに唐突に謝られ、顔が引きつる。
だって、あ、あの雲雀さんが私に、謝るって。

「君の絵、が」

ちょっと待って、何でこの人こんな今にも泣きそうな声出すの。

私の絵にそんな価値ないって思ったけど、でも、あの日雲雀さんは私の絵を好きだと言ってくれた人だから、そんなことは言えなくて。
少し迷ったけど、ゆっくり歩いてその紙切れを拾い上げ、雲雀さんの元に戻って彼の前に膝をついた。

「絵ならまた描けますよ。もうすぐ紅葉が綺麗な季節になりますから、今度は紅葉と並中を描きます。桜が良ければ来年、また描きますから。ね?」
「……でも、」
「とにかく今は、雲雀さんに怪我がなくて良かったです。……部屋片付けなきゃ。草壁さん達、呼んできます」

私の絵を大切に思ってくれる。
そんな雲雀さんに、つい照れてしまったことを悟られないように、足早に応接室から抜け出した。

……とりあえずリボーンには、後で文句言っても許されると思う。

 
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