もう恒例にすらなってきた、雲雀さんとのお茶タイム。
夏休みにも関わらず毎日学校にいるらしい雲雀さんにメールで呼び出され、私も並中へと向かっていた。もちろん制服で。
極力影を通るようにして歩くのは、少しでも暑さを軽減させたいからです。
野球部が練習をしている声を聞きながら校門を突っ切り、真っ直ぐ校舎に向かう。
今、グラウンドでは山本が部活に精を出しているのかな。そう思うと少しだけ顔がにやけた。後で写真とれないかなあ。
下駄箱で上履きに履き替えて、目指すは応接室。
階段を上って辿り着いたそこに、扉の前ですうっと深呼吸。
何回会っても、雲雀さんと直で会うのは緊張する。まあ私一般人だからね、仕方ないよね!
それでも山本たちとかはまだマシなんだけど……雲雀さんはあれか、格が違うからか。雲雀さんすごいもんなあ……なんて、1人でうんうんと首を縦に振り、そこでいや何やってんだよと我に返って、前髪をくしゃりと掴んだ。
「こんにちはー」
コンコンとノックをしてから返事を待たずにドアを開ける。
以前、同じことをしたときにたまたま雲雀さんの虫の居所が悪くて、トンファー投げ飛ばされたことがあった。あれはまじで死んだと思った。
危ない!って草壁さんが叫んでくれなかったら絶対死んでたよ私。ていうか叫んでくれたからって生き残れた私マジですごいと思う。反射神経ばんざい。
でもまあその日以外はそんなこともなく、今も至って平和だ。
ドゴォなんて恐怖の効果音はどこからも聞こえない。
いつもならここで雲雀さんが、遅いよなり何なりコメントをしてくれるんだけど、今日は何の反応も無い。……あれっ?無視されてる?
ほんのりとびくつきながら、応接室のでっかいソファーに座って頬杖をついている雲雀さんに首を傾げ、ゆっくりと近づいていった。
「……、」
寝てる。
あの葉っぱが落ちる音でさえ起床してしまう雲雀さんが、私が来ても寝たまんまだなんて。
ある種の感動を得ながら、私の手は自然とカバンに入れていたデジカメに伸びていた。ピ、と起動音の後、数秒待ってスタンバイオッケー。
雲雀さんの寝顔ゲットのチャーンス!
多分キラーンだなんて輝いているであろう私の瞳に映るのは、デジカメの画面に写された雲雀さんの寝顔。
緊張のせいか震える手で、カシャ、とシャッターを押したと同時に、その画面は真っ暗になった。……雲雀さんの、手によって。
「っちょ、あ」
「僕の寝込みを襲うなんていい度胸じゃない」
「いや誤解を生む言い方しないでください」
レンズを手で覆われてしまい、確認してみれば撮れたのは雲雀さんの手のドアップだけ。
……まあそれはそれで、ある意味記念になるか……?と、とりあえず消すことはせずに、デジカメの電源をオフにした。
「いつから起きてたんです?」
「君がノックをしたときから」
「最初からかよー」
「なんか光のソワソワしてる姿が面白くてね」
「狸寝入りとか雲雀さん質悪い」
「盗撮しようとしていた子に言われたくないな」
うぐ。
デジカメを鞄にしまおうとしたところでその言葉に一時停止した私は、壊れたロボットみたいな動きで雲雀さんに目を向け、むっすーとほっぺを膨らませながら口を開いた。
「雲雀さんからは撮影許可おりてますう」
「僕の知らない間に撮ることは許してないよ」
「……ちぇっ」
今度リボーンに気配の消し方とか教えてもらおう。そうだそうしよう。
そして今度こそ!雲雀さんの寝顔を!!
「そんなことより早く紅茶いれて。美味しい茶葉が入ったんだ」
「そうなんですか?」
「茶菓子は冷蔵庫の中ね」
「メニューは!」
「ラ・ナミモリーヌのケーキ」
「よっしゃあキタコレ」
そのケーキと美味しい紅茶に免じて、写真を撮らせてくれなかったことは水に流してあげましょうとも!
私ちょう優しい!
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