辿り着いた、生で見る竹寿司に感動。
思わずカバンに忍ばせていたデジカメでぱしゃりと写真を撮ってしまったら、山本に「んな珍しいかー?」と笑われてしまった。恥ずかしい。埋まりたい。

がらがらと引き戸を開け、のれんをくぐり店内へ。

「親父ーただいまー」
「お邪魔します」
「おう武か!後ろの子が噂の五十嵐さんかい?」
「……噂?」

山本の後ろでぺこりとおじぎをした私を見て、山本のお父さんがにんまりと笑う。
疑問符を浮かべる私におじさんが何かを説明しようとした、瞬間。

「なっ何でもねーから!ほらっ、な?座って座って」
「え?う、うん」

強制的に山本に背中を押されて、カウンター席に座らされた。

なんだなんだ、噂について詳しく。山本ってばお父さんに何話したの?!
……気になるけど聞ける雰囲気じゃない。仕方ない諦めよう……。

気持ちを切り替えて、今は!寿司!!

「んじゃ俺、着替えてくっから。五十嵐はゆっくりしてってくれな!」
「あ、はい。ありがとう」
「?どーいたしまして!」

くしゃりと私の頭を撫でてから裏に消えた山本を見送り、おじさんの方に向き直る。
……と、おじさんはかなぁりの笑顔で、私を見つめていた。な、何なんだ。

「いやあ、武が女の子を連れてきたのは初めてだ!」
「っえ、あ、そうなんですか?」
「五十嵐光ちゃんだろう?武がいっつも楽しそうに話してたよ」
「っ、な、何を……!」

おじさんそこんところ詳しく!今山本いないし、ほら、チャンスの今のうちに詳しく話しちゃってください!
内容によっては私多分空飛べる気がする。そして内容によっては引きこもりになります。
人の言葉ってすごいよね!

「それはなあ、」

話し始めようとした、その瞬間に、がらがらと再び開く店の扉。
よぉ剛さんこんばんはーとか言いながら入ってくるおっさんはきっと常連客さんなんだろう。
なんだろうけど、ごめん、これだけ言わせて!空気読め!!

へいらっしゃい!って、おじさんは一瞬で山本のお父さんではなく寿司屋の板前さんの顔になってしまった。しかも着替え終わったらしい山本がひょこっと裏から出てくる。
もう話聞けないじゃんショック。
……まあもう一度気を取り直して、寿司!

というか山本の板前姿かっけえ……!半端無い破壊力を有しているぞ。うっかり山本お持ち帰りたいなあなんて現実逃避をしていたら、にかっと笑った顔の山本が目の前に立っていた。

不意打ち!

「ほいお茶」
「あ、どうも」
「んで、何食べる?つっても、握るのは親父だけどな」

向こうでさっきのKYJ(空気読めない常連客)と話していたおじさんが「寿司握るにはウン十年早ぇ!」とこっちを見てきたことで、笑いが漏れる。仲良し親子だなあ。
熱々のお茶を飲みながら板前山本を見直して、あーやっばい写真撮りたいと心から思う。いつか撮らせてもらおう。
それより今はこの板前山本に萌えすぎて倒れないようにしなきゃね……!

「とりあえずー…たまごからお願いします」
「あいよっ」

……だめだK.Oされそう。


――…


「ごちそう様でした!」
「おう!いい食べっぷりだったよ」
「とっても美味しかったです。今度から竹寿司食べにきますね!」
「じゃあ五十嵐は常連客になるのなー」
「なるなる、超なる」

むしろ毎晩竹寿司でもいいくらいです。

おじさんに「嬢ちゃんを送ってあげな」と言われた山本はまたもや着替えに行ってしまった。
店先でおじさんと山本を待つ間、私はにこにこと微笑みながら寿司の余韻に浸る。少し経って、ひゅうと涼しい風が吹いた直後、おじさんが口を開いた。

「武がなぁ、特定の子の話を家でしたのは初めてなんだよ」
「……え?」
「最近の話題は、嬢ちゃんと2人の男子のことばかりだ。それがなんだか嬉しくてねぇ」

男子2人…ツナと獄寺のことか。
本当に嬉しそうなおじさんに、私も目を細めて笑んだ。

「山本君は、すてきな友人に囲まれていますよ。本当に山本君が大切で、お互いを信頼しあっている。そんな友達。だからもう、大丈夫ですよ」

きゅっと、拳を握りしめて。

「彼を理解してくれる友人は、今、彼の隣にいます」
「そうか……そうか」

だからもう、山本は同じことを繰り返さない。
大切なものが何かを知ったから。
大切なものを見つけられたから。

「お待たせっ!んじゃ親父、五十嵐のこと送ってくるな」
「……ああ、気を付けろよ」
「おう!」
「それじゃあ、お邪魔しました」

ぺこりとおじぎをして、歩き出した山本を追いかける。
おじさんはとても優しい瞳で、山本の背中を見つめていた。

 
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