「"なあ五十嵐、今日暇か!?"」
「"なんで山本君が私の番号を知っているのですか……"」
「"小僧が教えてくれたぜ?"」

あんの鬼畜教師め……。


夏休み真っ最中の夕方過ぎ、知らない番号を通知した携帯に出てみれば、見知った声が聞こえてきて眉が寄る。
山本君、声だけでも爽やかですね……すごいね……私は夏バテで死にそうです。なぜって未だにアイス生活を送ってるからですすみません。
いや週1くらいで沢田家にご招待(という名の誘拐)されてんだけど、だからこそ他の日はアイスでいいじゃんみたいな……。

「"えーっと、それで何?山本君"」

少し間があいてしまったから慌てたように問いかけた私に、山本は電話の向こうで軽く笑った。
いつもの爽やかな笑い声っていうよりは、なんか、恥ずかしがってるような。

「"あのさ、この前宿題教えてもらったときに寿司奢るって言っただろ?今日来れないかなーと思ってさ"」

そういえばそんなこともあったなあ。すっかり忘れてたや、大好きな寿司なのに。

「"うん、今日は暇だよ。今からだと晩ご飯になるけど……大丈夫?"」
「"おう!"」
「"じゃあ、えっと……"」

ちょっと待って私山本の家知らない。いやでも竹寿司って探せば見つかるかな…どうなんだ…。
ううんと口を噤む。私どうやって山本ん家行こう。

「"そんじゃあ今から迎えに行くから!"」
「"えっ!?"」
「"小僧が電話番号と一緒に五十嵐ん家の地図も渡してくれたのなー"」

わ、私のプライバシー……。
ぽかんと口を開いたまんま携帯を落としちゃいそうになったけど、なんとか踏みとどまって頭を抱えた。
今度リボーンに会ったら、せめて1発は殴ろう。無理だろうけど。

「"それならお言葉に甘えます。いつくらいになる?"」
「"んー、20分くらいかな"」
「"じゃあそれくらいに下で待ってるね。ありがとう、山本君"」
「"わかった。でも別にお礼言われることじゃないのな!"」

くっそ君は天使か!
山本の電話越しでも関係無しな爽やかオーラに思わず携帯を握りしめてしまった。携帯ごめん。

通話を切ってからは大忙しだ。寝起きのままでぼさぼさの髪を整えて、着ていく服をクローゼットから探し出す。
やばいテンション上がってきた!
それもこれも山本が爽やかなのがいけない。罪な男だな山本…!

着替えも終わっていろいろ準備してたら時間もいいくらい。
玄関でスニーカーに履き替えて、ドアをあけた。


――…


アパートの外でぼんやりと空を見上げて、山本を待つ。
あれちょっと待ってこれデートみたいじゃね?とか思ってないから……ちょっとしか。……全国の山本ファンのみんなごめんね!

そうやって1人でにやけてたら、いきなり視界が真っ暗になった。

「わっ!?」
「だーれだっ」
「ー…!んなっ、なななな」
「ははっ悪ぃ、びっくりさせちまったか?」

ぱっと明るくなった視界に映る、山本の姿。
……いやいや今の何!?どんだけ私を萌えさせればいいんだこの子。何この子怖い。天性のたらしキャラな気がしてきた。
ばっくばくうるさい心臓を深呼吸で落ち着けて、ごめんなーと笑いながら謝ってくる山本を見上げ、苦笑。

そんなことしてると、女の子はみんな勘違いしちゃうぞ……。

てか会うの2回目でこのフレンドリーさ!
さすが山本としか言えねえ……まじ尊敬するわ……。

「びっくりして心臓3回転くらいしたよ」
「3回転?面白い例え方すんのな」
「え、友達の中では結構メジャーだったんだけどな」
「まじ?じゃあ俺も今度使おっ」

からからと笑う山本に、意識しなくても顔がにやける。
これはいけない、ちょっと顔引き締めないとなんか残念な顔になりそうだ。もとからそうでもないけどな!


んじゃ行こうぜーと歩き出す山本の隣を、ひょこひょこと歩き出す。
ほんの少し赤く染まりだした空に浮かぶ太陽が、私と山本の影を長く、地面に映した。

あー私あの山本と歩いてんだなあってしみじみ、実感。やばい感動で顔がにやける。私の頬の筋肉がんばれ。

そうだ会話がないのがいけないんだ。話してたら多少笑ってても変じゃないよね。
うんそうだそうしよう。

「そ、ういえば、山本君は野球やってんだよね?」
「うん、五十嵐も野球に興味あんのか?」
「出来ないけど見るのは好き」

主に漫画で。実際の野球はね、見てもルールがいまいちわかんないからね!わかったら楽しめるんだけどなー。
あ、でもホームランとか打った瞬間は普通に感動する。打つのも気持ち良いんだろうなあ。

「じゃあ今度、五十嵐も一緒にバッティングセンター行くか?」
「おおうまじで」

ひょいと顔を覗きこまれて、びっくり。
山本の発言に、さらにびっくり。

「あのボールを打つ瞬間がな、すかーってなってすっごい気持ち良いんだ!悩んでることとか、全部吹っ飛んじまうだぜ?それでホームラン打てたら、最高!」

そう語る山本の顔が、あまりにも眩しすぎて。私は一瞬、言葉を紡ぐことができなかった。
……山本はすごいなあ。
まっすぐで、きらきらしてて、本当に普通の中学生。

「山本君は……本当に野球が、好きなんだね」
「もちろん!」

そこまで夢中になれるものがあるのが、少し、羨ましいな。

「じゃあ今度、打ち方教えてもらおうかな」
「よっしゃ!じゃあ約束なっ」

目の前に出された小指に瞠目して、手から腕、そして山本の顔に視線を移す。
にこにこと屈託のない笑顔で、約束!と口にした山本に、ふ、と笑みをこぼした。
出された小指に自分の小指を絡めて、山本を見上げる。

「「ゆーびきーりげんまんうーそついたら針千本飲ーます、ゆーびきった!」」

山本の向こうに見えた空は、とても澄んでいて、きれいだった。

 
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