光の事は何も解らないまま、次の日の朝が来てしまった。
全部全部、夢だと思いたい。ヴァリアーのことも、光がいなくなってしまったことも、俺達のことをわかっていないみたいだった……昨日の、光のことも。
学校に行けば、光に会えるような気がした。だけどやっぱり、光はいなくて。昨日のことは現実なんだと言われたような気持ちになる。

どうして、光。何で。
そんな思いに塗れたまま、あっという間に学校は終わって、1人きりでの帰り道。
ぼんやりとしていたからだろうか。すれ違った誰かと肩がぶつかって――そのまま電柱に頭をぶつけそうになった。

「っわ、」

声を上げたのはぶつかった人で、腕を引っ張るように身体を支えられる。
「大丈夫?ごめんね」と柔らかい声が降ってきて、なぜかその声が、光に聞こえた。男の人の声なのに、何でだろう。

「だ、大丈夫です。すみません、考え事してて……」
「ううん。大丈夫なら良かった。ええと、君が、沢田綱吉くん?」
「……えっ?」

顔をあげた先で、ふわふわとした茶髪の、優しそうな男の人が笑っている。薄紫色の瞳に、間抜け面の俺が映っていた。

「髪色髪型、顔立ち、雰囲気……うん、聞いていた通り。沢田綱吉くんだよね?」
「そ、そうですけど、」

男の人は俺の腕を掴んだまま、やっぱりにこにこと笑っている。優しそうなのに、掴まれた腕も痛くなんてないのに、何でか、怖くてたまらなかった。
こんな言い方悪いけど、吐き気がするような……そんな、恐怖。
ザンザスに抱いたものとはまったく違う、侵食されるような怖さだった。足下から、地面が腐り落ちていくような。

「急にごめんね、僕は白藤紗枝。ボンゴレ側の、宵の指輪の守護者なんだ」
「え、……え?」
「あれ、聞いてない?家光さんは知っているはずなんだけど……」

その言葉に、余計混乱する。
たまたまぶつかっただけの人が、実は指輪保持者で、しかも父さんの知り合い?というか、

「宵の指輪、って……」
「ん?五十嵐光ちゃんが持っている指輪のことだよ」
「光が!?」

ますます、訳が分からなくなった。
光が8人目の、指輪保持者?しかも、この人がボンゴレ側ってことは、光が……ヴァリアー側?何で?
昨日の光は、俺達のことを知らないみたいだった。あいつらと居るのが当然みたいに、黒い服を着て、そこに馴染んでいた。

どうしよう、本当に、理解できない。

「……ごめんね、困らせたいわけじゃなかったんだけど」

男の人――白藤さんが、そっと手を離して頬を掻く。
この人は、怖い。だけど、嘘を言っているようには見えない。

「僕は、光ちゃんの持っている指輪が必要なんだ。だから君には認めて欲しい、僕がボンゴレの人間として、君を守護することを」

でもそれは、その言葉は、光をヴァリアーの人間として認めることに、なっちゃうんじゃ。
心の中でそう考える。目の前の、白藤さんはただただ笑っている。ほんの少し、申し訳なさそうな雰囲気を滲ませながら。

何て応えればいいのかわからないまま黙っていたら、突然、単調なメロディーが辺りに響いた。
一瞬、2人してびっくりして、白藤さんがごめんと言いつつポケットから携帯を取り出す。電話だったのか、携帯を耳に当てて一言二言交わし、そうしてすぐに通話を切った。
また申し訳なさそうに笑った彼が、俺に向かって両手を合わせる。

「ごめんね、急用が入っちゃって。僕の詳しいことは家光さんかリボーンさんに訊いたらわかると思うから。また来るね、綱吉くん」

ぽん、と俺の頭を軽く撫でて、白藤さんは慌ただしく走り去っていった。

何もかもがわからない。
あの人のことも、光のことも。

だけど、そうやって考え込んでいても、時間はあっという間に過ぎていく。
夜になって並中へと向かえば、ヴァリアーと共に、やっぱり光はそこにいた。

 
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