恋愛的な意味ではなく、みんなが好き、ってそんなにいけないことだろうか。
ツナや山本や獄寺、雲雀さん、リボーンにランボ、骸、京子ちゃんとハル、奈々さん。他にもいっぱい、並盛組は、みんな好き。
それだけじゃなくて、ヴァリアーのみんなも好きだし、まだ会ってないけれど白蘭やユニ達だって好き。
みんなが好きだからみんなといたいし、みんなを守りたいし、誰も傷付けたくない。

それって、そんなにいけないこと?


――…


「なあ次!次マーモンの真似!」
「さっきので終わりって言ったじゃないですか……」

争奪戦までなんやかんやの準備があるのか、やることもなく暇らしいベルはちょくちょく私の部屋を訪れてくれる。
多分、来ないときは並盛近辺で暗殺者狩りだかなんだかをやってんだろう。血生臭い格好でここにくることは無いので、気にしないでおく。

そしてそのベルに、声真似が得意なことがバレてしまった私は、もう完全に恰好のオモチャと化していた。
スクアーロ、ザンザス、ベル本人、と他諸々の声真似を要求され、さっきので最後だっつったのにまた要求される。一応の文句は言うけれど、結局ベルに敵うわけがないのでマーモンの声真似をするしかない。ごめんねマーモン。

「えー、あー……っごほん。『この世はすべて金だよ、金』」
「すっげーそっくり!ちょーウケる」
「そんな草生やさなくても」
「草?」
「ああいやなんでもないです」

だってベルの笑い方が完全にあれだったから……つい。

暫く経ってようやく声真似に満足したのか、ベルは「王子喉乾いたー」とソファに思いっきりもたれる。
喉乾いたのは私の方だと思いつつも、じゃあコーヒーでも淹れますねと立ち上がった。このホテルの部屋、ミニキッチンついてるんだよね。金持ちめ……。

「そいえば後でマーモン来るってよ」
「え、何でですか」
「……知ーらねっ」

お湯を沸かし始めたところで、ベルが呟く。けれどすぐにそっぽを向いたベルの反応に、ああこれは何でか知ってるなあと思いはしたけど、それを聞き出せる頭脳は持ち合わせていなかった。
というより、聞く必要のあることじゃないんだろう。この場において私になんらかの決定権は皆無なのだし。

「お前さー、ほんっと逃げようとしねーよな」

そう言いつつ投げつけられるナイフを器用に避け、淹れ終えたコーヒーを両手にベルの側へと戻る。
……手加減してるとは言え、ベルのナイフ避けられるようになっちゃったなあ、私……。いや、逃げることが出来ると考えれば喜ばしい成長なのだけど……。

「まあ、逃げようとしたってヴァリアーの人に敵うわけないですし」
「そりゃそーだ。光って意外と頭使ってるんだな」
「馬鹿にするか褒めるかどっちかにしてくれません?」

ベルはすっかり慣れたように私からコーヒーを受け取って、カップに口を付ける。さすが王子だけあってこういう仕草は綺麗なんだよなあと思いながら、私もコーヒーを飲んだ。熱かった。

「邪魔するよ」
「うわっ」
「お、マーモン。早かったな」

すっとどこからともなく現れたマーモンに、思わず落としそうになったカップを慌てて掴み直す。あ、危なかった。
マーモンはそんな私をちらりとだけ眺めて、すぐにベルへと視線を戻す。

「またコレで遊んでたのかい?ベル」
「まーな。光、おもしれーから」
「ふうん、まあいいけど。ボクは仕事をするだけさ」

すっごく物扱いされたなあと、ちょっとだけ溜息を吐いてから再びコーヒーに口を付ける。今度はそこまで熱くなくて、こくりこくりと二口飲めた。

「光、」
「……?」

唐突にマーモンに名前を呼ばれ、驚き混じりに顔を上げる。

そうして、私の手から、カップが落ちた。

 
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