「自分一人じゃ何も出来ないって決めつけて、誰かの助けを待ってるだけのお姫様」か。

言われてみて、確かにそうだと少し笑う。
何の力も持たない私が、一人で何か……みんなの為になるような事が出来るわけがない。ましてや、自分のためになることすら出来やしない。
此処から逃げることも、みんなに安否を伝えることも。
黒曜戦の時だってそうだ。ツナなら大丈夫、雲雀さんなら大丈夫、骸なら、大丈夫。そう思って、ただ私は一人で泣いてただけ。泣くだけでいいんだから、本当にただの、可哀相なお姫様だ。……そんな大層なものではないけれど。

だからって今この場でなんらかの動きを見せるのは、勇気ではなく無謀に思える。
指輪が無い以上、私にヴァリアーと匹敵するような力は無い。だからやっぱり、指輪争奪戦まで待つことしか……って、この思考が「誰かの助けを待ってるだけのお姫様」、なのか。

「じゃあどうしろっての……」

一人、宛がわれたホテルの一室でクッションを放り投げる。ばすんとゆるい音を立てて壁にぶつかり、落ちたそれをぼんやりと眺めてから拾いに行った。
無意味な行動してるわ。

争奪戦が始まるまで、あと数日はある。……はず。
正確な日にちは覚えてないけど、争奪戦の展開はだいたい覚えている。
一日目が晴戦、ルッスーリア対了平さん。二日目が雷戦、レヴィ対ランボ。三日目が嵐戦、ベル対獄寺。四日目が雨戦、スクアーロ対山本。五日目が霧戦、マーモン対クローム。……うん?クローム?

「っあああ!!」

思わず叫んで、立ち上がる。立ち上がることに意味はまったくないのだけど、つい立ってしまった。
そのままどうしようどうしよう、と室内を歩き回る。ああ、うわあ、どうしよう、どうしよう!何で今まですっかり忘れてたんだろう!!

「ゔお゙ぉい!どうしたぁ!!」
「うわあああ!??」
「あ゙ぁ!!?」

ッバーン!と部屋の扉が開かれて、ついまた叫んでしまう。それに釣られたのか部屋の扉を開けたスクアーロも叫んで、そして、室内に静寂が帰ってきた。

「ど、どうしようスクアーロさん、私、頼まれたのに、すっかり忘れてて、うわあどうしよう約束破っちゃったよおお……!大切なお願いだったのに……」
「何だぁ……?ペットの世話でも頼まれてたのか」
「ペットじゃないけどそんな感じです……」

骸が、クロームのことをお願いしてくれたのに、私、クロームに会うことすら出来ずにこうなっちゃった。うわあ絶対骸に幻滅されてるよ……。クロームにも私のこと話してたかもしれないし、そしたらクロームからの印象値も激減じゃん……。
ショックというか衝撃というか、あっさりとスクアーロに拉致された自分の不甲斐なさに涙が出てくる。せめて起きていれば声くらい出せただろうに。
ああ、もう、本当にどうしよう。

スクアーロがいることも忘れて、ソファーに突っ伏して自分を責めながら涙を流す。
ばかばか、私の馬鹿。せっかく骸が、クロームのことを私なんかにお願いしてくれてたのに!

「あ゙ー……その、なんだ、……悪かったなぁ」
「……えっ」

あ、ああ、そういえばスクアーロいたんだった、と慌てて涙を引っ込める。
そして告げられた謝罪の言葉には、きょとんとした視線を向けてしまった。何でスクアーロが謝るのか、理解が追いつかなかった。

「何の約束かは知らねぇが、てめえがそれを破っちまったのは俺の所為だろぉ。……だから、悪かった」
「え、……いや、でも、スクアーロさんも仕事でやったことですし……」

って何でフォローしてんだ私。

「ええと……スクアーロさんって意外と、優しいですよね」
「何言ってんだてめえはぁ……」
「いやここ数日間を経ての率直な感想ですけど……」

ものすっごい呆れた顔を向けられてしまったけれど、まあそれは置いといて。
スクアーロは溜息をつきながら頭をがしがしと掻くと、床にへたり込んでいた私の腕を引っ張った。うぉうとびっくりしながらも立ち上がり、スクアーロへ目線をむける。

「てめえみてえな甘いガキを、俺達と同じ場所に置くのは心配だぜぇ」

絡んだ視線は、存外、やさしいものだった。

 
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