ついこの間イタリアへ飛んだばかりだっていうのに、今の私は日本行きの飛行機の中でちんまりと座席におさまっている。今度は部屋の中なんて大層な扱いではない。

ザンザスがハーフボンゴレリングを偽物だと見破ったのが14日。今は多分15日で、今日中には日本へと着く。
その後は恐らく……ホテルでもとるんじゃないだろうか。日本国内、それも並盛の近辺でヴァリアーが滞在できるような居城があるとは思えない。……いやボンゴレとして考えればあるかもしれないけど、現状の彼らがそれを使えるかと言われたら微妙だし。
となると私もそのホテルに滞在することになるんだろうな。途中、どこかで抜け出せたら……とは思うけれど、脱出不可能な機内でさえ両サイドをヴァリアーの隊員に防がれてしまっているのだし、多分無理。というか絶対無理。

「なあ光ー、王子ヒマなんだけど」
「奇遇ですね私もですよ……」

半分死んだような目になりながら、私の座席の頭部分に両腕を乗せて顔を覗かせてくるベルに返事をする。
「そうじゃなくて何か相手しろっつってんの」とベルは拗ねた声を出したけど、正直私にそんな余裕はないのである。つーかベル何でこんな友好的なの?そして友好的な割に何ですぐナイフ投げてくんの?

ヴァリアー側から支給された黒のワンピースの裾に触れながら、小さく溜息を吐く。
と、ベルはひょいっと私の正面に跳んで、ナイフを突きつけてきた。そういうのほんと止めてください……。

「王子が相手しろって言ってんのに何その態度?」
「私の指輪、返してくれたらお相手させて頂きますよ」
「……だって、スクアーロ」
「俺に振んじゃねぇよ」

通路を挟んでいくらか離れた席に座っているスクアーロが、呆れた溜息を漏らす。
なんとなく向けた視線が絡んでどきりとしたけれど、その目が思っていた以上に冷たくて、なんとなく淋しくなった。
スクアーロのこと好きだけど、仲良くなるのは難しいよなあ……。

「指輪は時がくるまでてめえには渡さねぇ。そう何度も言っただろうが」
「確かに聞きましたけど……」

指輪を返してもらったところで、私はヴァリアーに拒絶の力を使うつもりなんてまったくないんだから、返してくれたっていいのに。

「そんな冷たい言い方しなくてもいいじゃないスクアーロ。あの子だって拠が無くて困ってんでしょう?」
「お前は黙ってろぉ、ルッスーリア」

うっかりさっきのベルみたいな表情になっていたところに、今度はスクアーロの前に座っていたルッスーリアが助け船、のようなものを出してくれる。
けれどちらと向けられた雰囲気はやっぱり冷たくて、苦笑することしか出来なかった。
とりあえずで笑ってしまうのは、悪い癖だと思ってはいるのだけど。
むにむにとベルが私のほっぺを引っ張ってくるのを放置していたら、ルッスーリアが言葉を続ける。

「ごめんね光ちゃん、スクアーロは言い方が冷たいのよ。まあ気持ちはわかるけど。私もあなたみたいな子はあまり好きじゃないけれど、これからは同じヴァリアーなんですもの、許してあげてね」
「……はあ、」

割とスクアーロよりルッスーリアの言葉の方がグサッとくるんだけど。
ほとんど泣いてるような気分になっていたら、ベルがきょとんとした風でルッスーリアに問いかけた。「なに、ルッスーリア、光のこと嫌いなの?」と、やや半笑いの声音で。
その笑い、私に向けてるものじゃないよね?

「はっきり言うのも悪いけれど、嫌いよ」
「何で?」
「だって貴女、自分一人じゃ何も出来ないって決めつけて、誰かの助けを待ってるだけのお姫様なんですもの。そんな女、好みじゃないわ」

ベルへの返答だったはずなのに、それは確かに私へと真っ直ぐに向けられた言葉だった。サングラスで視線までは見えないけれど、顔が私の方を向いているし。
……ぐうの音も出ないほどの正論で、目を逸らすしかなかった。

「ししっ、確かにそれっぽいけど、こいつどう見ても姫ではないっしょ」

そしてベルに追い打ちをかけられて、いよいよもって私はこの機内に居辛くなる。
アウェイってこういう時に使う単語なんだろうなあ。

ルッスーリアから受け取った言葉をどう処理するか考えながら、窓の外へと視線を向けた。

 
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