なぜかベルの分のコーヒーも淹れることになり、台所でなんとも言えない気分になりながらお湯を沸かす。
ベルはソファーにごろごろと寝転がって、「王子待たすとかなんなのー」と文句を垂れていた。ちょっぴりイラッとしてしまうけれど、あのベルに勝てる方法なんて持ってないので謝っておく。

「で、ベルさんは何でここに?ていうか、この部屋の鍵って……」
「暇つぶし。鍵なら幹部以上は全員持ってるぜー」
「わ、私のプライバシー……」

いつでもウェルカム状態なわけですかそうですか。……泣きそう。
マーモンなら心の底からいつでもウェルカムなんだけど。

小さくため息を吐いて、ようやく淹れられたコーヒーを持って部屋に戻る。
テーブルの上にことんとカップを置けば、ベルは少しだけ鼻をひくつかせてからふうんと喉を鳴らした。
私はベルが座っているソファーの、机を挟んだ正面にクッションを置いて、その上に腰を下ろす。自分のコーヒーはもうほとんど冷めていた。

「庶民の割にはコーヒー淹れんのうまいじゃん」
「ありがとうございます」

こくこくとコーヒーを数口喉に流し込み、ベルはしししっと笑う。
意外と、このベルは優しそうに見えた。見えるだけできっとそうでもないんだろうけど、まあ、今のところ害がないならそれがいい。

「でさー、お前ホントに宵のリングの守護者なワケ?全然戦えるよーに見えねえんだけど」

カップがかたん、と音を鳴らしてテーブルの上に戻される。
それをなんとなく眺めてからベルへと目線をあげて、私は苦笑気味の笑みを漏らした。

「宵のリングが使えるのは、事実ですよ。戦うのは専門外ですけど」
「ふーん?ま、どーでもいいけど。でも少しぐらい戦えねーとお前、死ぬんじゃね?」
「ですよねー……」

意識せずに出たのは、深すぎる溜息だった。
自分が勝者への賞品として争奪戦に絡むなら、戦えなくてもまだどうにかなる。けど、どうにも私はそうなる気がしなくて……ツナ側にも私と似たような立場の人が現れる気がして、いけない。
戦えないどころかロクに長距離を走る体力も無い私が、そんな状況になって生き残れるはずがない。

まず、あの、争奪戦さ、最後さ、デスヒーターだっけ?出てくるじゃん。毒。アレ絶対無理だね、5秒で死ぬ自信ある。
ていうかヴァリアー側に立たされるのはもうこの際どうでもいいとして、ヴァリアー側の守護者として戦った状態で負けるのがすっごく嫌だ!死しか見えない。
去年の今頃に戻りたい。切実に。今ならリボーンのバースデーパーティーにも満面の笑みで出席できる。

「……俺が鍛えてやろっか」
「えっ」

ししっ、という笑い声と一緒に告げられた言葉に、驚愕混じりの顔を上げる。
ベルはただひたすらににやにやと笑って、ナイフを数本構えていた。口元が引き攣る。

「俺のナイフ避けれるよーになれば、そこら辺の奴相手ならなんとかなるんじゃね?っしし、ナイス提案ー」
「い、や、いやいや、無理ですよそんなの!ベルさんのナイフ避けるなん、って、!?」

ヒュンッ、と、風が髪の毛を切って、私はほぼ無意識に頭を横に傾けていた。冷や汗が垂れる。心臓が、どくどくと五月蠅く鳴り始める。
い、いま、ナイフ投げられた、っていうか、この人思いっきり、目、狙った。

「……王子びっくり。なんだ、避けれんじゃん。今、殺すつもりで投げたのに」
「やめてくださいよ!?」
「カチーン、王子に命令するとか何様?」
「命令じゃなくてお願いですってうわあああ!?」

今度は足下に刺さったナイフに慌てて立ち上がる。
やばいこの人、全然優しくなかった!全然害あったわ!過去の自分どんだけ状況甘く見てたんだ!

ひゅんひゅんと、それでも手加減はしてくれてんだろう量のナイフを、もうほとんど泣いてるような表情で命からがら避けていく。
私が避ける度にあちこちの壁や床に刺さっていくナイフに、ああ、部屋が…せっかく綺麗な部屋なのに……とまた泣きそうになった。いやもうこれはいっそ泣こう。
何で私がこんな目に遭わなきゃいけないのか!私の天使に会いたい!ツナと山本と京子ちゃんとハルに前後左右挟まれたい!!

「ベッ、ベルさ、ほんと勘弁してってあああかすった!かすりましたよ今!手!これ血ぃ出てるじゃないですかちょっとおおお!」
「しししっ、避けらんねーお前が悪い」
「もうやだこの人おおお!」

混乱しきった私の口はぼろぼろとベルへの罵詈雑言(って程でもないけど)を垂れ流していって、それに余計キレたベルがナイフの本数を更に増やす。
これはもうだめだ、死んだ。ごめんねツナ…獄寺…山本…雲雀さん…だめだ名前あげてったらキリがない……。死ぬ前に奈々さんの手料理、食べたかっ……、

「ゔお゙ぉい!!何騒いでやがんだぁ!!大人しくしとけっつったろうがぁ!!!」
「わあああ天の助け!!」

ほとんど壊れたテンションで、ばーん!と扉を開けて絶叫しながら登場してくれたスクアーロの背中に猛スピードで隠れる。役得!
ベルはスクアーロが現れたのも気にせずナイフを投げ続けていて、スクアーロは予想外だったらしい現状に驚きつつもそれらを全てはたき落としてくれた。
スクアーロぐっじょぶ!さすが私の最愛キャラ!

「……なにやってんだぁ、ベル」
「躾のなってない庶民を鍛えてやってたんだよ」
「ベルさんほんと勘弁してください、スクアーロさん助けて」
「……、」

数分後、事情を理解したらしいスクアーロにベルはげんこつを落とされていた。
ついでに何故か私にも落とされた。解せないけどスクアーロなので気にしないことにします。

 
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