一ヶ月ぶりくらいかな、イタリアに来るのは。
前回と違って観光目的でもないし、来たくて来たわけではないのだけど。そして景色を楽しむ事も無く、多分ヴァリアー邸の一室に閉じこめられたのだけど。

機内で私のいた部屋の前に立っていた女性が、私の手を拘束してこの部屋まで連れていってくれた。……くれた、っていうのも変な話だな。
私1人には広すぎる部屋はそれなりに豪華で、監禁生活もこんな部屋ならそんなに悪くはないかもしれない、というのが初見時の感想である。
本棚にはそこそこ本も入っているし、テレビは無いけど、まあ暇を潰すには充分だろう。
「大人しくしていなさいよ」と、粗方の説明を終えた女性はそう言い残して部屋から出て行った。がちゃん、と外から鍵をかけて。

そろそろ私は、大人しくしていろがゲシュタルト崩壊しそうだ。


この部屋に内鍵は無い。
外からのみ開閉できるここは、まさしく中にいる人物を閉じこめるための部屋だった。
まるで脱出ゲームのようだと思いながら、私は室内の探索を始める。

まずはお風呂。
足をおもいっきり伸ばすどころか、湯船の中で寝転がれそうなくらいの広さだ。石鹸類もちゃんと揃っている上に入浴剤まである。綿棒やヘアブラシに化粧水とかまで……って、ここ実はホテルなの?
洗面所も広々としているし、ドライヤーはマイナスイオンが出てくるとかいう感じのやつだった。
お風呂の隣にはこれまた、こんな広さいらないでしょってくらい広いトイレ。生理用品もちゃんと置いてある。蛇足だけどトイレットペーパーはダブルで香りつきだった。

ううん、なんだかツッコミづらい。
部屋はイタリアン〜な感じで小物もおしゃれだったりするから、それなりに気分は上がるのだけど、所々に垣間見えるホテル感が現実を見せてくる、というか。
ここ、ほんとにヴァリアーが住んでるとこなの?って感じ。

水回りを抜けて、部屋に戻る。
窓は二つあるけれどどちらにも鉄格子が張り巡らされていて、ここから出ることは出来なさそうだ。
ベッドは二、三度は寝返りが打てそうな大きさ。天蓋までついている。ベッドサイドのテーブルにはメモ帳とペンが置かれていた。
ソファーは革張りの割にはふかふかとしていて、小さめの丸テーブルの横には数種類の雑誌が入ったラック。敷かれたカーペットは毛並みが気持ち良くてそのまま眠れそうだ。
そして部屋の隅に小さな簡易キッチンと、冷蔵庫。棚には食器類だけじゃなくて、お茶やコーヒー豆も置かれている。これは嬉しい。


だいたいの探索を終え、早速コーヒーを煎れてからテーブルにカップを置いて、本棚から適当に何冊か、恐らくイタリアの小説を取り出してソファーに戻る。
ぱらぱらとページを捲りながら、コーヒーの香りが鼻をくすぐるのを楽しんだ。

これが拉致監禁の結果じゃなく、日常だったら最高のシチュエーションだなと思う。
これだけが現実で、ヴァリアーに拉致られたってのが夢だったらいいのに。ああでもスクアーロとは面識を持っていたい。

ツナ達……みんなはきっと、今にもたくさん心配をしてくれているだろうに、呑気なもんだなと自分で思いはするけれど。
どうしようもないことをうじうじ悩んでいても、それこそ本当にどうしようもない。意味がない。
携帯が無い以上連絡は取れないんだし、時期がくれば事情を話すことは出来る。
それまでは、久しぶりの休日だと思ってのんびりしているのが一番だ。

「ししっ、邪魔するぜー」

がちゃん、ばんっ!と唐突に開かれた部屋の扉と、聞こえてきた声に私の休日は一瞬で消え去った。
そうでした、ここ、ヴァリアー邸でした。

 
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